社会保障財源への影響と信託基金の枯渇リスク
この控除措置により、公的年金制度の財源は約300億ドル減少すると見込まれています。さらに、社会保障信託基金は2033年に枯渇する見通しで、これは従来の予測よりも9ヵ月早い時期です。
もっとも、信託基金が枯渇しても制度が即座に停止するわけではありません。現役世代の給与から徴収される「給与税(payroll tax)」による納付は継続されるため、年金制度そのものは存続します。しかし、給付額は最大で23%削減される可能性があると指摘されています。
たとえば、現在の平均受給額は月額1,976ドル(約28万円)ですが、23%の削減が実施された場合、月1,522ドル(約22万円)にまで減額されます。これは、月あたり約454ドル(約6万6,000円)の減額となり、固定収入に頼る高齢者にとっては大きな打撃となります。
課税強化と受給年齢の見直し
今後、ベビーブーマー世代の大量退職や平均寿命の延伸が進むことにより、公的年金制度は持続可能性の面で極めて深刻な課題に直面しています。
現行の給与税は、年収17万6,100ドル(約2,500万円)までを課税対象としており、それを超える所得には課税されていません。この制度の持続性を高めるには、課税上限の引き上げや、現在67歳とされているフル受給年齢を70歳に引き上げる案などが検討されています。これは、日本における受給開始年齢の引き上げと同様、給付圧縮を目的とした政策です。
公的年金制度の改革は、もはや先送りできない喫緊の課題です。減税政策による財政の逼迫に加え、制度自体の構造的な限界も明らかになりつつあります。今後は、財政健全性と国民生活の両立を見据えた、冷静かつ迅速な対応が議会に求められています。
税理士法人奥村会計事務所 代表
奥村眞吾
