(※写真はイメージです/PIXTA)

長年海外で暮らしてきた芙美さん姉妹が、日本に住んだ経験のないまま直面した父親の相続。住民登録も実印登録もない状態で、相続手続きは可能なのでしょうか?スムーズな手続きのためにはどんな準備が必要なのか、実際にどのように進められたのか――。相続実務士・曽根惠子氏(株式会社夢相続 代表取締役)が解説します。

海外在住の相続人は「印鑑証明に代わる書類」で対応

日本に住民票がなく、実印登録もできない相続人については、以下のような方法で対応します。

 

【署名証明書】+【サイン証明】

日本大使館・領事館で取得可能 本人確認のうえで、署名証明書を発行してもらえます(印鑑証明の代用)

【宣誓供述書(Affidavit)】などを併用することもあり

 

 

父親の家があることで手続きが楽に

芙美さん姉妹は日本国籍を持ち、父親の自宅が日本にあったことから、相談に来られた翌日に父親の自宅住所で住民票の登録を行い、あわせて実印の登録も済ませました。その結果、住民票と印鑑証明書を無事に取得することができました。

 

父親の財産は、自宅マンション、預金、株式、車などを合わせておよそ8,000万円ほどあり、相続税の申告と納税が必要となります。なお、父親は遺言書を作成していなかったため、遺産分割協議書の作成が必要となりました。

 

2回目に来られた際に、その遺産分割協議書を作成し、姉妹お二人の署名と押印を行って手続きが完了しました。

 

預金や株式の解約、自宅マンションおよび車の名義変更については、司法書士に依頼することになり、司法書士への委任状もあわせて作成しました。まずは車の名義変更から着手し、手続きを進めてもらっています。

 

自宅マンションについてはしばらく維持する予定ですが、車については駐車場代もかかるうえ、日本で使用する予定もないとのことで、できるだけ早く売却したいという意向を伺っています。

 

 

【手続き方法】

1.転入届(住民異動届)を市区町村に提出

2.パスポート、戸籍、在留証明などで本人確認

3.居住の実態を説明(場合によっては現地確認される)

 

 

まとめ

芙美さん姉妹が最初に相談に来られた際、海外在住ということで、日本での住民登録や実印登録はされていないことがわかりました。日本語もあまり話さず、普段は母国語で生活されているそうです。このときは、父親の商社勤務時代からの友人が付き添って来られていました。

 

この友人は、父親が海外勤務をしていた頃に同じ国で働いており、芙美さん姉妹とも子どもの頃から交流があった方で、長年にわたって信頼関係を築いてこられました。父親が日本に帰国してからもその関係は続いており、「万が一のときは娘たちをサポートしてほしい」と頼まれていたそうです。手続きは、この方が英語で通訳をしながら進められました。

 

芙美さん姉妹には日本の姓と名前の漢字登録があるため、遺産分割協議書や司法書士への委任状には日本名で署名し、実印も押印されました。書き慣れない日本名に少し戸惑いながらも、無事に書類が完成し、その後すぐに車の名義変更を行い、預金・株の解約、自宅マンションの相続登記へと手続きを進めることができました。

 

相続税の申告は、国税庁からその年の路線価が発表されたあとになりますが、司法書士が残高証明書を取得して準備を進めていく予定です。

 

相談に来られてから遺産分割協議書の完成まではわずか数日。大きな問題もなく手続きが順調に進んだことで、芙美さん姉妹からは「ひと安心しました」と連絡がありました。葬儀のために来日してから約2週間後には無事に帰国され、ようやく落ち着くことができたようです。

残る手続きは相続税の申告ですが、期限までは8カ月以上あります。路線価が発表され次第、早めに申告を済ませる予定です。

 

 

曽根 惠子
公認不動産コンサルティングマスター
相続対策専門士
相続実務士®

株式会社夢相続 代表取締役

 

◆相続対策専門士とは?◆

公益財団法人 不動産流通推進センター(旧 不動産流通近代化センター、retpc.jp)認定資格。国土交通大臣の登録を受け、不動産コンサルティングを円滑に行うために必要な知識及び技能に関する試験に合格し、宅建取引士・不動産鑑定士・一級建築士の資格を有する者が「公認 不動産コンサルティングマスター」と認定され、そのなかから相続に関する専門コースを修了したものが「相続対策専門士」として認定されます。相続対策専門士は、顧客のニーズを把握し、ワンストップで解決に導くための提案を行います。なお、資格は1年ごとの更新制で、業務を通じて更新要件を満たす必要があります。

 

「相続対策専門士」は問題解決の窓口となり、弁護士、税理士の業務につなげていく役割であり、業法に抵触する職務を担当することはありません。

 

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