義姉の突然死
60代の辰徳さん(男性)が相談に来られました。辰徳さんは次男で、70代の兄(長男)と2人きょうだいです。兄は大学を出て仕事をするようになってから実家を離れましたので、次男の辰徳さんが両親と同居して、現在も実家を相続して、妻と娘の3人で生活しています。
兄は理系出身で、上場企業の研究職を経て、国立大学の教授を歴任し、70歳まで教壇に立っていました。現在は大学近くに家を構え、夫婦で静かに暮らしています。
兄夫婦には子どもがいませんので、いつも夫婦で仲良く生活しているというイメージを持っていたと辰徳さんはいいます。
そんなある日、今年の年明け早々に義姉の兄から突然電話があり、「妹が亡くなっていた」と知らされたのです。夫である辰徳さんの兄からは何の連絡もなかったため、まさに寝耳に水で、ただただ驚くばかりだったといいます。
義姉の兄の話では、「妹は自宅の玄関で倒れているところを警察に発見されました。しばらく連絡が取れないのを不審に思い、ケアマネジャーが警察に通報したのです。死因はくも膜下出血で、発見されたのは亡くなってから数日後でした」とのことでした。
義姉の発見が遅れたのは、辰徳さんの兄自身が、妻の異変に気づけなかったからだといいます。中でも衝撃的だったのは、認知症が進行していた兄が、倒れている妻を見てもそれが自分の妻だと認識できず、「この人は誰だろう?」と他人だと思い込み、何の対応もできなかったことでした。
辰徳さんにとって、その兄は自慢の存在でした。いつも理路整然と話をし、まわりからも一目置かれる存在だったのです。大学を70歳で退官した後、認知症の兆しがあるとは義姉から聞いていましたが、会う機会も少なく、要介護1だという話は知っていたものの、そこまで状態が進んでいるとは想像もしていなかったといいます。
突然の相続 遺産分割協議書が必要
辰徳さんの兄はかなり混乱していたようで、すぐにショートステイ施設へ一時的に移されましたが、現在では落ち着いていて会話もできるように回復しているといいます。
義姉は70歳になったばかりで、しかも突然死。遺言書はありませんでした。子どもがいないため、義姉の相続人は配偶者である辰徳さんの兄と義姉の兄2人。基礎控除は4,800万円です。
義姉はきちんとした人で自分で財産をまとめたエンディングノートがあり、銀行と証券会社の取引先は確認ができました。不動産は兄と共有の自宅です。評価をすると自宅の持ち分が1,000万円、預金2,000万円、株5,000万円で合わせて8,000万円程度だと想定されましたので、相続税の申告が必要とわかり、私のほうでサポートしながら税理士と申告の準備を進めています。
義姉の兄2人は妹が親から相続した株の一部をもらいたいということで、法定割合を基準として遺産分割協議をすることになりました。預金や株の解約手続きは義姉の兄が動くということで、遺産分割協議書はできあがり、義兄が解約を進めています。
施設入所と信託・後見制度の選択
辰徳さんの兄は、当初の混乱からはかなり回復し、今では普通に会話もできるようになりました。義姉が残したエンディングノートを見ては、二人で過ごした日々や妻の細やかな気遣いを思い出し、涙をこぼす姿も見られました。しかし、義姉を失った今、ひとりで自宅で暮らし続けるのは難しそうです。というのも、これまで家事全般は専業主婦だった義姉が担っており、辰徳さんの兄には、自分で食事を用意したり掃除をしたりという発想がもともとなかったのかもしれません。
そこで、辰徳さんご家族とも話し合いを重ねた結果、辰徳さんの家から車で20分ほどの場所にある高齢者向け住宅へ住み替えてもらうことになりました。
あわせて、今後さらに認知機能の低下が進んだときに備え、辰徳さんとの間で任意後見契約を結ぶことをおすすめしました。また、将来的に兄の財産が辰徳さんに一方的に集中しないよう、辰徳さんの妻にも一部を遺贈する内容の遺言書の作成もご提案しました。これらについては、程なく契約・作成が完了する見込みです。
