お墓に対する価値観の変化
お墓に入る・入らない問題
もう一つ増えているのがお墓の問題です。
「先祖代々のお墓には入りたくない」
「そもそもお墓に入りたいという気持ちがない」
「散骨や樹木葬など、別の方法を選びたい」
こうした声は確実に増えています。背景には、家族の関係性の変化や宗教観・死生観の多様化があります。
実際に夏美さんも、かつては「夫と同じ墓に入りたい」と考えていたそうです。しかし、夫の死から1年後には「海に散骨してほしい」と気持ちが変化しました。お墓は「家族をつなぐ場所」である一方で、“縛り”の象徴にもなり得ます。お墓に入る・入らないは、個人の価値観に委ねる時代になってきました。
新たにお墓を作る、墓守をする・しない問題
現代でも、地方に行けば、先祖代々の墓を守る“墓守”という役割がある家は珍しくありません。しかし、子どもが都市部に出て戻らない現代では、「墓守を誰がするのか」という問題が顕在化しています。
●墓守の負担(費用・管理)が重い→子世代の精神的・金銭的ストレス
その結果、新たにコンパクトな永代供養墓を作る、合同墓に移すといった選択が進んでいます。これは決して“伝統を捨てる”ことではなく、現代のライフスタイルに合った合理的な判断ともいえます。
ただ家があるというだけで
夏美さんの実家は現在2,000万円の価値があることがわかりました。この場合、年間でかかる負担は、住宅用地の特例を適用しても固定資産税と都市計画税だけで年間約4万円。さらに、古民家ならではの修繕費はいつ、いくらかかるか予測もつきません。屋根の補修や傷んだ柱の交換、庭の手入れや割高になりがちな火災保険料まで含めると、年間で50万円以上の負担になることもあります。
「これだけのお金が、ただ家があるというだけで消えていく。これをあの子たちに背負わせるのは、親としてあまりにも酷だわ……」
仮に売却する場合、建物自体の価値はほぼゼロのため、解体費用がかかると2,000万円が手に入るわけではありません。しかし、夏美さんは自らの代で、200年続いたこの家を終わらせることを選びます。心の中ではご先祖様に「ごめんなさい」と何度も詫びました。頬を伝う涙は、寂しさか、それとも安堵か――。しかし、子どもたちの未来から重い鎖を解き放つことを決めた彼女の表情は、どこか晴れやかにもみえました。
