仮想通貨フィッシング詐欺の恐るべき手口
「気づいたら、残高はゼロになっていました」
そううなだれるのは、佐藤正彦さん(仮名/50歳)。若くして事業を立ち上げ、成功を収めた経営者です。経営のかたわら資産形成にも積極的で、数年前からは友人の勧めで仮想通貨投資も始めました。特にビットコイン(BTC)やイーサリアム(ETH)を大量に保有し、その評価額は一時およそ10億円にも達します。
しかし、巧妙な「フィッシング詐欺」によって、わずか数分でそのすべてを失うことに。一瞬の誤操作から、何十年とかけて築いた財産は跡形もなく奪い去られたのです。
偽サイトに誘導された“たった一度のクリック”
事の発端は、普段利用している仮想通貨取引所を装った、一通のメールでした。件名は「【重要】アカウント確認のお願い」。
正規の通知だと信じ込んだ佐藤さんは、記載されたリンクをクリック。表示されたログイン画面も、本物と見分けがつかないほど精巧に作られており、IDとパスワードを入力してしまいました。その直後、悪夢が始まります。口座から保有していた仮想通貨が次々と外部アドレスに送金され、残高はゼロに……。
「自分が入力した直後から、すべてが吸い取られるように消えていった」
その衝撃は、いまだに言葉にできないと佐藤さんは語ります。
なぜ、仮想通貨は“取り返しがつかない”のか
銀行の不正利用であれば補償制度が機能しますが、仮想通貨の世界は根本的に異なります。一度失った資産を取り戻すことは、ほぼ不可能です。
・取引は不可逆的で、一度送金されれば取り消し不可能
・送金先は匿名性が高く、 犯人のウォレットアドレスはわかっても、相手を特定することは困難
・補償制度がないため、被害は自己責任
佐藤さんも警察や取引所に相談しましたが、返金は絶望的。「10億円」という資産は、数分で二度と戻らないものとなってしまいました。この「10億円」の仮想通貨は、現在の時価総額で考えると『60~70億円』ほどになっていることを考えると、非常に恐ろしくなります。
「ビジネスの世界ではリスク管理を徹底してきたつもりでした。それなのに、プライベートの投資でたった一度の油断が命取りになるとは……」
経営者としての冷静さを持つ佐藤さんでさえ、仮想通貨の世界では“カモ”になり得たのです。
