日本で高福祉・高負担が難しい理由…日本がスウェーデンになれない“構造的な違い”とは【国際税務の専門家が解説】

日本で高福祉・高負担が難しい理由…日本がスウェーデンになれない“構造的な違い”とは【国際税務の専門家が解説】
(※写真はイメージです/PIXTA)

財政難にあえぐ日本で、手厚い社会保障を誇る北欧諸国をお手本にすべきだ、という議論が絶えません。しかし、その高福祉モデルを、そのまま日本に持ち込むことは本当に可能なのでしょうか。実は、両者の間には、一人当たりGDPの経済力、1億人を超える人口規模、そして福祉国家が形成された歴史的・政治的背景など、単純な比較では見過ごされがちな「構造的な違い」が存在します。本稿では、日本が北欧モデルを安易に模倣できない根本的な理由について、7月に『富裕層が知っておきたい世界の税制【大洋州、アジア・中東、アメリカ編】』を刊行した矢内一好氏が解説します。

北欧諸国における高福祉実現の背景

高福祉の背景には、国民の豊かさが関係しています。国民の裕福さを示す指標として、一人当たりGDP(国内総生産)がよく用いられます。

 

2022年の国別一人当たりGDPランキングによれば、日本は第30位(33,821ドル)であり、米国(76,399ドル)やドイツ(48,646ドル)、フランス(42,409ドル)よりも下位に位置しています。一方、北欧諸国は軒並み上位で、ノルウェーは第2位(81,995ドル)、アイスランドが8位、デンマークが9位、スウェーデンが12位、フィンランドが17位です。

 

極論すれば、北欧諸国の国民は日本よりも豊かであるということになります。この国民の経済的な基盤の差が、高福祉政策を実現できるかどうかの大きな要因のひとつです。

北欧諸国の人口規模と財政負担

アイスランド(約36万人)を除く北欧諸国の人口は、スウェーデンが約1,045万人、デンマーク、ノルウェー、フィンランドはいずれも500万人台です。比較として、東京都の人口は2020年時点で約1,400万人であり、北欧諸国の人口規模は日本の大都市1つに相当します。

 

一方、日本の総人口は2021年で約1億2,550万人。うち65歳以上の高齢者は3,621万人にのぼり、全体の約29%を占めています。こうした急速な高齢化のもとで高福祉制度を実現しようとすれば、その財政負担は北欧諸国と比べて非常に大きくなります。

北欧諸国が高福祉を実現した歴史的背景

北欧諸国(スウェーデン、デンマーク、ノルウェー、フィンランド、アイスランド)は地理的な近接性に加え、歴史的なつながりがあります。

 

たとえば、世界最大の島であるグリーンランドは現在デンマーク領ですが、かつては北欧の多くの地域がデンマークの支配下にありました。これらの国々は、共通の歴史的背景を持つなかで、独立後も政策面で「横並び」になる傾向が強く、福祉制度の構築においても共通点が多いのです。

高福祉のもうひとつの要因:中道政権の安定

北欧諸国では長らく中道左派または中道右派の政権が政治を担っており、急進的な左右対立を避けながら、少しずつ福祉制度を整備してきました。資本と労働、与党と野党の間での大きな対立が少なかったため、持続的な制度構築が可能だったのです。

 

また、税収確保においても、国民の豊かさと高福祉への満足感が背景にあり、「高負担でも構わない」という合意が徐々に形成されていきました。

高負担と租税回避の問題

もちろん、すべての国民が高負担に無条件で同意しているわけではありません。過去には、所得税のないモナコに移住した高所得者や、高所得者に対して税制上の優遇措置があるスイスへ移住した経営者の例もあります。

 

高負担の制度設計には、こうした租税回避への対策も不可欠となっており、制度を持続可能にするためには国際的な連携や監視体制の強化も求められています。

 

 

矢内一好

国際課税研究所首席研究員

 

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