海外投資の「出口戦略」に高まるリスク…日本企業が直面する撤退への困難とは【国際税務の専門家が解説】

海外投資の「出口戦略」に高まるリスク…日本企業が直面する撤退への困難とは【国際税務の専門家が解説】
(※写真はイメージです/PIXTA)

日本企業の海外進出が加速する一方で、計画通りに事業が進まず、撤退を選択せざるを得ないケースが増えています。経済産業省の調査でも、ASEAN諸国や中国における一定の撤退率が示されています。さらに近年では、ロシアのウクライナ侵攻後のように、撤退する企業に「撤退税」ともいえる制限が課されるなど、予期せぬ政治的リスクも顕在化しています。本記事では、海外投資における撤退の現状と新たなリスクについて、詳しく解説します。

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海外投資撤退のリスク

日本企業の海外進出が加速するなか、進出先での事業継続の難しさや、やむなく撤退を選択せざるを得ないケースが増えています。ASEAN諸国や中国への投資は依然として活発ですが、撤退率の上昇や政治的リスクの高まりが、企業経営に新たな課題を突きつけています。

 

とりわけ、ロシアによるウクライナ侵攻後の経済制裁に伴い、ロシア市場から撤退する企業に対しては、いわゆる「撤退税」ともいえる制限が課されるなど、国際ビジネスの現場では新たな摩擦も生じています。

 

若年人口の減少などにより、日本市場の将来性に対する悲観的な見方が強まるなか、低賃金や新たな市場開拓といった利点を考慮し、海外へ進出する企業が増加しています。進出企業の多くは、投資が失敗するというシナリオを想定せず、成功を前提に経営判断を行っている傾向があります。

 

しかし、実際には多くの企業が当初の計画どおりに事業を展開できず、撤退を余儀なくされているのが現状です。

日本からアジア(ASEAN)への投資の状況

経済産業省の2022年の調査によれば、2021年時点でのASEAN加盟国への日系企業の進出数は以下のとおりです。

 

インドネシア(2,046社)、カンボジア(434社)、シンガポール(882社)、タイ(5,856社)、フィリピン(1,377社)、ブルネイ(18社)、ベトナム(2,306社)、マレーシア(1,210社)、ミャンマー(546社)、ラオス(171社)

 

一方、中国への進出企業数は31,047社、台湾は1,310社です。地域別の動向としては、中国・アジア全体および北米への進出は減少傾向にあり、欧州は増加傾向にあります。

撤退の状況

同じく経済産業省の調査によれば、2020年における海外現地法人の撤退数は770社であり、内訳は製造業が305社、非製造業が465社です。地域別では、北米が104社、中国が277社、ASEAN10か国が190社となっています。これを撤退比率で見ると、中国が3.6%、ASEAN10か国が2.5%です。

進出企業に対するバックアップ体制

アジア地域への進出においては中小企業の割合が高く、現地情報の不足や、慣れない商慣習・法制度への対応に苦慮することが少なくありません。そのため、中小企業庁やジェトロ(日本貿易振興機構)などの公的機関が、現地で困難に直面した企業に対し、相談対応や各種支援を行っています。

ロシア撤退に関する最近の事例

近年、ロシアによるウクライナ侵攻を受けた経済制裁の影響で、ロシアからの撤退を決めた企業が相次いでいます。欧州諸国は、ロシアから天然ガスなどのエネルギー供給を受けている一方で、その利用を制限することで、ロシアへの外貨流入を抑制しようとするジレンマに直面しています。

 

ロシアから撤退する外国企業は、ロシア国内の事業を第三者へ売却する必要がありますが、報道によれば、ロシア政府がその売却に介入している例もあります。

 

たとえば、フィンランドのタイヤメーカーは、ロシア政府から売却価格を半額に下げるよう要求され、さらに売却代金の10%を政府に納付するよう求められたとされます。米国財務省は、こうした要求を「撤退税(exit tax)」と呼び、問題視しています。

ロシアの税制に関する最近の動向

一般に、二国間で租税条約が締結される際には、投資所得(配当や利子など)にかかる二重課税を回避するため、源泉地国の税率に上限を設けることが通例です。

 

2020年9月、ロシアとキプロスは租税条約の改正に署名しました。改正前は、配当および利子に対する限度税率は5%または10%とされていましたが、改正によりこれが15%に引き上げられました。この改正の背景には、ロシア政府が新型コロナウイルス対策の財源を確保するという目的があったとされています。

 

 

矢内一好

国際課税研究所首席研究員

 

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