自分の意思を形にする2つの終活対策
①公正証書遺言の作成
まず、智子さんは「全財産を兄に相続させる」という内容の公正証書遺言を作成しました。
遺産の内容は、大きく分けて以下の2つです。
・自宅マンション(ローンなし)
・預金 約3,000万円
智子さんは、兄にマンションごと遺すのではなく、遺言執行者が売却して現金化し、預金と合わせて兄に現金で渡すことを明記しました。
これは、兄が高齢で不動産の管理が困難なことを考慮しての配慮です。また、兄が先に亡くなっていた場合には、兄の子(姪)に全財産を遺贈するという二次的な指定も行いました。これにより、「最も感謝している兄の家系に残す」ことが確実に実現されます。
②死後事務委任契約の締結
次に、智子さんが強く希望したのが、「姉たちには葬儀も知らせたくない」という点でした。
これを実現するには、死後の手続きを誰に任せるかを生前に契約で定めておく必要があります。
また、自分より年上の兄が存命であったとしても、葬儀や不動産や家財の処分を引き受けてもらうのは心苦しいと考えています。よってそうした手配を誰かに託さないといけないと思ったのです。
「死後事務委任契約」は、生前に本人と信頼できる人(この場合は兄)との間で、「死後の事務手続き(葬儀・火葬・納骨・行政手続きなど)」を委任する契約です。
今回は、公正証書で作成し、智子さんの意向(通知先を限定・式典は行わず火葬のみ)を文書に明記しました。
少しは自分のために使いたい。終活の先にある安心
財産の分け方をしっかり決め、契約書を作成したことで、智子さんの表情は晴れやかになりました。
「やっと決められてよかった。これで心が軽くなりました。あとは、少しだけ、自分のために使ってもいいですよね」
そう言って、智子さんは小さく笑いました。
老後資金として3,000万円の預金があり、住まいも確保されている今、ようやく自分の楽しみや安心のためにお金を使う気持ちになれたのです。
まとめ:財産をどう遺すかは、人生の総仕上げ
配偶者も子どももいない人にとって、「誰に遺すか」「どう遺すか」を考えることは、人生の最終章をどう生きるかにもつながります。
智子さんのように、過去の経験から「姉たちに遺したくない」という強い意思を持ち、それを遺言と死後事務委任で形にすることで、初めてその想いが実現されるのです。
家族だからといって安心せず、むしろ家族だからこそ備えるべきことがある。智子さんの終活は、多くの人にとって「自分ごと」として考えるきっかけになるはずです。
また、財産は残すためにあるのではなく、自分のために使ってもいい時代です。いままで始末してこられて、住む家があり、少しまとまったお金もあるので、これからは自分の楽しみや生きがいになることのためにお金を使ってはいかがでしょうか? と智子さんにもお伝えしています。これからの智子さんの日々が、いままで以上に豊かになればと願います。
曽根 惠子
公認不動産コンサルティングマスター
相続対策専門士
相続実務士®
株式会社夢相続 代表取締役
◆相続対策専門士とは?◆
公益財団法人 不動産流通推進センター(旧 不動産流通近代化センター、retpc.jp)認定資格。国土交通大臣の登録を受け、不動産コンサルティングを円滑に行うために必要な知識及び技能に関する試験に合格し、宅建取引士・不動産鑑定士・一級建築士の資格を有する者が「公認 不動産コンサルティングマスター」と認定され、そのなかから相続に関する専門コースを修了したものが「相続対策専門士」として認定されます。相続対策専門士は、顧客のニーズを把握し、ワンストップで解決に導くための提案を行います。なお、資格は1年ごとの更新制で、業務を通じて更新要件を満たす必要があります。
「相続対策専門士」は問題解決の窓口となり、弁護士、税理士の業務につなげていく役割であり、業法に抵触する職務を担当することはありません。
