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定年退職の翌日、妻が放った「衝撃の一言」
最終出社日を終えた亮介さんは、晴れやかな気持ちでデパートに立ち寄った。長年、家庭を守り続けてくれた妻への感謝の印として、ショーウィンドウに飾られていた47万円のハイブランドのバッグを迷わず購入した。これからの第二の人生を共に歩むパートナーへの、最高の贈り物になるはずだった。
帰宅すると、薫さんは腕によりをかけた豪華な料理で亮介さんを労った。「お父さん、長い間お疲れ様でした」その言葉に感激した亮介さんは、ここぞとばかりにデパートの紙袋を差し出した。
「専業主婦としてこれまで支えてくれて本当にありがとう。これ、お前に」
中身を見た薫さんは、一瞬息を呑み、「……ありがとう」とだけ呟いた。しかし、その表情に亮介が期待したような華やいだ喜びはなく、どこか戸惑いが浮かんでいるように見えた。その微妙な空気に気づかないフリをして、亮介さんはグラスを掲げた。
輝かしい第二の人生の始まりを告げる言葉に、妻も喜んでくれると信じて疑わなかった。しかし、薫さんは一瞬、見たことのないような険しい表情を浮かべた。
そして翌朝、亮介さんは薫さんから人生を揺るがす一言を告げられる。
「離婚してください」
耳を疑う亮介さんに、薫さんは静かだが、決然とした口調で続けた。
「私はこれまで、ずっとあなたに人生を支配されてきました。パートに出たいといえば『男がいる職場で働くなんて許さない』と反対され、友人と旅行に行くことすら許されなかった。家のことには無関心なくせに、冷蔵庫の中身や掃除の仕方にだけは口を出す。これからは一日中家にいて、私のやることなすことに口出しをされると思うと……。もう、そんな生活は限界なんです」
亮介さんは絶句した。思い当たる節は、痛いほどあった。妻を一人の人間として尊重せず、自分の価値観の中に閉じ込めていたのかもしれない。「俺が稼いだから、お前たちは何不自由なく暮らせたんだぞ」という反論は、「それは感謝しています。でも、あなたはいつもそうやって論点をすり替える。私には私の人生がありました」という冷静な言葉に打ち砕かれた。
亮天さんのようなケースは、決して特殊なものではない。厚生労働省の人口動態統計によれば、同居期間20年以上の夫婦の離婚、いわゆる「熟年離婚」は年間3万件以上発生しており、夫の定年を機に妻側から切り出されるケースは社会問題化している。亮介さんが生きてきた「昭和の価値観」と、妻が求めていた「個人の尊重」との間には、修復不可能な溝が生まれていたのだ。
