専業主婦歴40年以上・家計は夫におまかせ
道子さん(仮名・67歳)は、短大卒業後に事務員として就職。3年後、職場で知り合った営業マンの夫と結婚しました。結婚退社が当たり前の時代、道子さんもその通例に倣って会社を去り、その後は専業主婦として家庭を支え、一人娘を育て上げました。
夫が3つ年上だったこともあり、家計管理は夫が担当。道子さんには必要な生活費が毎月手渡されるだけで、夫の収入額や貯蓄状況について詳しく聞いたことはありませんでした。
道子さんは、自分が家計管理に向いていないと自覚していました。夫のほうが確実に頼りになり、適切に管理できる。そのため細かく知る必要もないと思っていたのです。
そんな道子さんの暮らしが一変したのは、夫が交通整理のアルバイト中に心筋梗塞で急死してからでした。
「お金のことが何もわからない」夫の死で直面した現実
突然の別れに呆然とするしかない道子さん。すでに独立して家庭を持つ娘の助けを借りて、なんとか葬儀を終えました。しかし、葬儀の準備の最中から問題は起きていました。
「お金のことが何もわからない……」
娘と相談し、葬儀は大きなものにはしませんでしたが、それでも費用は130万円ほど。葬儀が終わると請求書が送られてきます。そのお金をどうするのか…そこで道子さんはこう気づいたのです。
道子さん自身の貯蓄は、短い独身時代に貯めたお金と、結婚時に親から渡されたお金、合わせて150万円ほど。あとはすべて夫が管理していました。
とりあえず、自分の貯金から葬儀代だけは何とか工面できそうです。とはいえ、それを支払えば手元のお金はほぼなくなります。道子さんは、葬儀が終わった途端に色々な確認に追われることになりました。
銀行の通帳とカードは見つけられましたが、暗証番号がわからず引き出すことができません。試しに何パターンか入れてみたものの、セキュリティでロックされてしまいました。銀行の窓口に問い合わせると、たとえ配偶者であっても名義人以外が引き出すことはできないと説明されました。
「もう結婚して50年近くたつ夫婦なのに、どういうことなの……」
呆然とする道子さん。結局、娘と娘の夫に協力してもらいながら、相続や各種手続きを行うことに。それでも「夫の貯金を引き出せれば生活できる」と思っていました。
後々判明したのは、通帳に記載されていた残高は最終のものではなかったこと。改めて最新の残高を確認すると、残高は300万円ほど。これには娘も驚愕したといいます。
「だからお父さん、ずっとアルバイトしていたのかしら。私、この家はお金に余裕があると思って、家の頭金や息子のプレゼントなんかを受け取ってしまったけど、まさかこれしかないなんて……」
道子さんや娘には、アルバイトをする理由を「健康と暇つぶし」と言っていましたが、実は老後資金にまったく余裕がなかったことが判明したのです。住宅ローンが重たかった、退職金が思ったより少なかった、毎月の家計管理が甘かった、娘家族に援助をし過ぎた……推測はできても、夫亡き後では詳細はわかりません。
「優しい夫でしたから、私に心配をかけまいとして貯金が残り少ないことをずっと隠していたのかもしれません。あるいは、私に話しても意味がないと思ったのか……」
うなだれる道子さん。そこに追い打ちをかけたのが、遺族年金の現実でした。
