長年思い描いていた「田舎暮らし」だが…
首都圏在住だった長谷川知子さん(仮名・70歳)は、夫の定年退職を機に、長年思い描いていた「田舎暮らし」を実行に移しました。
「退職金が2,000万円入ってきて、年金は夫婦で月26万円。娘も自立しているし、2人だけの生活なら、もう十分じゃないかって」
夫妻が選んだのは、 “移住者に人気”とされるエリア。中古の平屋住宅(築20年・リフォーム済み)を1,200万円で購入し、残りの資金は老後の生活費に充てる予定でした。
「近くには山も川もあって、夏は涼しくて快適。野菜も安くて、すぐ近くの直売所で地元の人たちと話すのが楽しかった」
……のは、最初の3ヵ月ほどだったといいます。
「静かというより、孤独なんです。朝起きて、庭を眺めて、コーヒーを飲む。それだけの生活が毎日繰り返されると、だんだん“なにかを失っている”感覚が強くなってきて」
ご近所との関係も「悪くはない」が「深くはない」。車がなければ病院にも行けず、冬場の雪かきは70代には体力的に厳しい作業です。最も堪えたのは、夫婦での“会話の減少”だったと知子さんは振り返ります。
「都内にいた頃は、買い物や映画館、友人とのお茶とか、夫とは別々に過ごす時間も多かったんです。でも移住してからはずっと2人きり。喧嘩をするわけでもないんですが、あまり話さなくなってしまいました」
半年後、久しぶりに訪れた娘の彩さん(42歳・仮名)は、台所の隅に積まれた未使用の調味料や、冷え切った室内の空気に「違和感」を覚えたといいます。
「元気に見えたけど、母の顔から“張り”がなくなったような気がして」
その夜、彩さんが「毎日楽しんでる?」と何気なく尋ねたとき、母が絞り出したひと言。
「“夢の生活”だったはずなんだけどね……。ごめんね、ちょっと寂しいわ」
知子さんは「後悔しているわけじゃない」と前置きしながら、「思っていた以上に“人がいない”というのが堪える」と明かしました。
