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驚異のスピードと競争が生む「現場」の革新
多くの日本人富裕層にとって、中国はいまだ「チャイナリスク」という言葉が先行する市場であろう。強権的な政府による突然の規制強化、米中対立の激化、そして不透明な不動産市況。金融商品として積極的にポートフォリオに組み入れるには、躊躇する向きが多いのも無理はない。事実、マクロ経済の専門家である慶應義塾大学の白井さゆり氏も、その金融システムについては慎重な見方を示す。
「日本の投資家が人民元建て資産に本格的に投資することはないでしょう。なぜなら、中国の金融市場は自由市場ではなく、多くの規制が存在するからです。安心して大きな投資をするには至りません」(白井氏)
この見方は、富裕層が抱く一般的な感覚と一致する。しかし、その一方で、我々はこの国の「現場」で起きている地殻変動を見過ごしている可能性がある。それは、規制や統制といったマクロなイメージとは裏腹の、凄まじいスピードと競争原理によって駆動されるイノベーションの実態である。
白井氏が指摘するのは、中国のデジタル技術の驚異的な進展と、それが製造業の根幹を揺るがしている現実だ。
「中国はデジタル技術が驚異的に進んでおり、それを製造業に応用しているため、いまや他国が勝つのは難しい状況です。IoTやAI、ビッグデータを活用した商品開発が非常に速い。顧客のニーズに合わせて部品を組み合わせ、製品を素早く作り替える能力に匹敵できる国は、いまのところ見当たりません」(白井氏)
アメリカはトランプ政権時代から中国製品に高い関税を課し、その締め付けを強めている。当然、中国企業は苦境に立たされているはずであった。だが、現実はどうか。
「中国はアメリカ以外の国への輸出を増やしてカバーしています。日本を含むほとんどのアジア諸国は、中国に対して貿易赤字です」(白井氏)
財務省が発表した2023年の貿易統計確報によると、日本の対中貿易赤字は6兆6,546億円に上り、依然として大きな赤字基調が続いている。これは、中国製品が価格競争力だけでなく、品質や付加価値においてもアジア市場、ひいては世界市場で確固たる地位を築いていることの証左に他ならない。関税という逆風を、デジタル技術を応用した生産性の向上と、したたかな市場開拓によって乗り越えているのである。このダイナミズムは、単に「世界の工場」として安価な労働力に依存していた過去の中国の姿とはまったく異なる。
富裕層は中国の「個」の力に何を学ぶべきか
では、この恐るべきイノベーションの源泉はどこにあるのか。それは、国家主導の産業政策という側面だけでは説明がつかない、個人の内発的なエネルギーにあると白井氏は分析する。
「とにかく判断が速い。儲かると思えば、合法的な範囲で即座に行動します。一方、日本企業は海外に子会社があっても、重要な判断を本社に仰ぐため時間がかかります。技術力はあっても商品開発で遅れをとり、シェアを奪われるケースが多く見られます」(白井氏)
失敗を恐れずリスクを取るカルチャーが、今の日本に欠けているものだと指摘する。さらに注目すべきは、若い世代の起業家精神である。
「中国の若い起業家たちは、大学でエンジニアリングを学んだら、自分で起業するのが当たり前になっています。しかも、その視野は国内に留まらず、最初から世界を相手にビジネスをしています」(白井氏)
この「個」の力の覚醒は、日本の富裕層、特に自ら事業を営む経営者にとって、単なる海外の経済ニュースでは済まされない、自社の経営を揺るがしかねない脅威であり、同時に大きなチャンスでもある。
白井氏は、国際会議で出会ったある中国人CEOのエピソードに衝撃を受けたと語る。
「彼はエコノミストでもないのに、その時不安定だった日本の国債市場の状況を的確に把握していました。日本のビジネスがあるからでしょうが、その情報収集意欲が凄まじい。常に世界を見ているのです」(白井氏)
富裕層は、いま一度、自身の事業や投資活動の目線が国内に閉じていないか、自問すべき時なのかもしれない。金融商品としての中国に投資するのではなく、中国のイノベーションを牽引するグローバルな「個」の力と繋がり、彼らのスピード感やしたたかさを学ぶ。あるいは、彼らが開拓するアジアの新興国市場、たとえば「ベトナムなども急激に伸びている」と白井氏が言うように、その周辺に生まれる新たな事業機会に目を向ける。
米中対立の狭間で、中国経済の先行きを悲観的に見るのはたやすい。しかし、その足元で起きている「現場」のイノベーションと、世界市場を舞台に躍動する無数の「個」の存在を無視しては、これからの資産形成、そして事業経営の舵取りを見誤ることになるだろう。知られざるデジタル経済の深層にこそ、富裕層が次なる成長機会を見出すヒントが隠されている。
THE GOLD ONLINE編集部ニュース取材班
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