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米ドルの価値への信頼性、長期的な視点から明確に「イエス」
ウクライナ侵攻や中東情勢の混迷を経て、世界は再び「戦争の時代」へ足を踏み入れつつある。市場が混乱し、投資家心理が不安定になるなか、「米ドル」に脚光が当たっている。
長年、ドルは「安全通貨」として扱われてきた。戦争や金融危機など、有事の際には資金の逃避先として買われる傾向がある。2022年以降も同様の動きが見られた。はたして資産防衛の最後の砦として、米ドルの価値はいまも信頼に足るのか。
慶應義塾大学の白井さゆり教授は、長期的な視点から明確に「イエス」と答える。
「長い目で見て、少なくとも10年ぐらいはやはりドルが中心であり続けるでしょう。ドル以外に選択肢がありません」(白井氏)
確かに代替通貨が見当たらないという現実がある。EU加盟国27カ国のうち20カ国が法定通貨とする世界第2の準備通貨であるユーロも、市場の足並みが揃っていない。
「ドイツ国債とイタリア国債が同じ価値を持たないように、単一で巨大な金融市場を持つ米国の魅力には及びません。経済規模で米国を猛追する中国の人民元も、金融市場が自由化されておらず、規制の存在が大きな足かせとなっているため、世界の富裕層が安心して巨額の資産を投じる対象にはなり得ない」(白井氏)
一方で、かつて「有事の円買い」と言われた日本の円は、その地位を失いつつある。白井氏は日本経済について、
「もう構造的に円高に戻りにくいのです。その理由は、日米の物価上昇率を考慮した『実質金利差』の拡大と、日本が貿易赤字国に転落してしまったことにあります」
と話す。
事実、財務省が発表した貿易統計によれば、日本の貿易収支は赤字基調が続いており、円の価値を実需面から支える力はかつてより弱まっている。安全通貨としての円の神通力は、もはや過去のものと考えるべきだろう。
短期の円高リスクを乗りこなし、長期の果実を得る
とはいえ、長期的なドルの信認が、短期的な安泰を保証するわけではない。むしろ、資産をドルで保有する富裕層がいま、直視すべきは「円高リスク」である。
白井氏は、米連邦準備制度理事会(FRB)による利下げが視野に入るなか、
「方向的にはしばらくは円高だから、為替差損というのは出るわけです」
と警鐘を鳴らす。
仮に1億円の資産を米ドルで保有している場合、この短期的な為替変動をどう乗りこなすべきなのか。白井氏は以下の3つの戦略が必要であると指摘する。
第一は、為替ヘッジ付きの金融商品などを活用し、リスクを回避する「守りの戦略」だ。ただし、これはヘッジコストという確実なマイナスを伴う。
第二は、一旦ドルを売却し、想定通り円高が進んだ先で再び買い戻す「攻めの戦略」である。相場観に自信があれば大きなリターンを狙えるが、当然ながらタイミングを読み誤るリスクも大きい。
そして第三が、「長期的な視点に立ち、持ち続ける」という静観の戦略だ。白井氏自身、
「長い目で見てドルがどんどん下落するってことはちょっと考えにくいんで、いま持ってたら持ち続けるっていうのも一つでしょう」
と語る。
どの戦略を選ぶかは個々のリスク許容度によるが、その判断の根底に置くべきは、やはり長期的な視点であろう。
投資家である白井氏は自身のスタンスをこう明かす。
「私は長期投資家なので、日々の値動きはあまり見ていません。私はとにかくやっぱりドルを持つ方向です」
短期的な為替の波風を乗りこなし、その先にあるドルの普遍的な価値を見据える。それが、混迷の時代における資産防衛の王道と言えるのかもしれない。
THE GOLD ONLINE編集部ニュース取材班
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