(※写真はイメージです/PIXTA)

2025年7月、国税庁は全国の税務署において「AIによる相続税調査の選定」を本格導入する。これにより、2023年以降に発生したすべての相続税申告が、自動的にAIスクリーニングの対象となる。今後、どのような納税者が調査対象になりやすいのか。そして、私たちは何を備えておくべきなのか。AI時代の新・税務調査の実態に迫る。※本連載は、THE GOLD ONLINE編集部ニュース取材班が担当する。

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すべての相続税申告書、AIによる自動スクリーニングの対象に

国税庁は2025年7月から、全国の税務署で「AIによる相続税調査の選定を本格的に導入する。これにより、全国で提出されるすべての相続税申告書が、AIによる自動スクリーニングの対象となる。

 

国税当局では、これまで人手に頼っていた調査対象の選定作業が、AIによって大幅に効率化され、調査の精度とスピードの両立を期待しているという。

AIが申告書をスコア化、リスクに応じて調査を判断

新たに導入されるAIは、過去の調査データを学習し、「申告ミスや申告漏れが起こりやすいパターン」を把握。提出された申告書に対して、0から1の間で「リスクスコア」を付ける。

 

このスコアが高いほど、「調査の必要性が高い」と判定され、実地調査や電話による確認が行われる可能性が高まるという。

 

一方で、スコアが極めて低い申告については、調査の対象外とされる場合もある。

対象は「2023年以降の相続税申告」

AI判定の対象となるのは、2023年以降に発生した相続に対する相続税申告。相続税は、所得税や法人税と違い、年1回の定期的な申告がない「一過性の課税」であるため、調査機会は一度限りとなる。

 

国税庁としても、調査すべき案件をいかに漏れなく、正確に抽出するかが大きな課題となっていた。

 

こうした背景から、AIによる選定体制の強化は、調査の質を確保するための喫緊の取り組みだった。

人手不足と取引多様化に直面する国税行政

少子高齢化が進む日本では、国家公務員全体の人員確保が年々厳しくなっている。国税庁の職員数は過去10年間で約6%減少し、ベテラン調査官の退職も進行中だ。

 

奥村眞吾税理士(税理士法人奥村会計事務所代表)は、

 

「国税当局は膨大な数の相続税申告に対応しきれていないのが実情です。相続税の申告は一生に一度きりのケースが多く、タイミングを逃せば税務調査のチャンスも失われてしまいます。法人税や所得税のように継続的な申告がないため、税務署としては『不自然な申告』に対して即座に調査へ移行できる体制が理想ですが、実際には深刻な人手不足により、それが困難な状況になっています」

 

と分析する。

 

一方で、企業取引は電子商取引や海外取引の拡大により、かつてないほど複雑化。従来の「人の目による審査」では不正の兆候を見落とすリスクが高まっており、デジタル化と人手不足という二重の要因が、AI導入を後押しした。

 

2018年に始まったAIの実証導入は、2021年から法人税・消費税分野で本格化。現在では、不正検出に強みを持つ「異常検知型AI」が調査選定に活用されている。

過去の不正申告事例を学習&自動検出、具体的な例は…

国税庁が導入しているAIは、過去の不正申告事例を学習し、次のようなパターンを自動的に検出するという。

 

●売上と仕入れのバランスが極端に乖離

●特定月だけ利益が不自然に圧縮されている

●同業他社と比較して異常な経費率

●存在しない取引先へのインボイス提出

●赤字決算が続く中での高額な役員報酬

 

さらに電子帳簿や銀行口座の入出金、電子インボイス情報を突合させ、裏帳簿や仮装取引の兆候も洗い出すという。

 

こうしたAI分析は調査の“事前審査”として機能させることで、調査対象の絞り込みに大きく寄与することを想定している。

現金主義・手書き帳簿…アナログ処理は“異常値”として目を引く

かつては大企業中心だった税務調査の網が、AIの導入により中小規模の事業者にも広がっていくことが想定される。特に、以下の層はAIによる分析で浮かびやすいとされる。

 

EC事業者:決済履歴や在庫データがシステム管理されており、売上原価の不一致が発見

 

インボイス発行事業者:取引履歴が電子的に国税庁へ蓄積され、不審な請求や架空取引が判明

 

フリーランス・個人事業主:生活費と事業費の境界が曖昧な場合、使途不明金としてAIに検出

 

特に「現金主義」や「手書き帳簿」といったアナログ処理は、逆にデジタル社会では“異常値”として目立つようになっている。

情報収集・監視強化に懸念の一方、海外資産の調査には課題も

AI導入によって調査能力が飛躍的に向上するなか、「情報収集と監視の強化」という側面に対する懸念の声も挙がっている。

 

さらに課題を挙げれば、

 

「国際的な情報交換制度が整っていない国も多く、調査が困難なケースもある」(奥村税理士)

 

と指摘するように、海外にある資産に対して、日本の税務当局がどこまで調査できるのかという点も無視できないだろう。

 

 

THE GOLD ONLINE編集部ニュース取材班

 

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