にぎやかな隣家、静まり返る我が家
「お隣、今日は一段とにぎやかだな……」
窓際でぽつりとつぶやいたのは、松本幸二さん(仮名・73歳)。かつて大手メーカーで技術職として勤め上げ、65歳で退職。地方都市の閑静な住宅地に建てた戸建てで、一人暮らしを続けています。
退職金を含めた総資産は約7,600万円、年金は月22万円。お金に困ることはありません。しかし、松本さんの心はどこか空虚でした。
5年前に妻を心筋梗塞で亡くしてからというもの、それまで定期的に訪ねていた子どもや孫の姿も、今では年に一度の正月に日帰りで立ち寄る程度に。数時間のぎこちない会話のあと、そそくさと帰っていきます。
「現役時代は忙しさを言い訳にして、家庭のことはすべて妻に任せてきました。今さら、どうやって距離を縮めればいいのかもわからなくて」
昔は職場に行けば居場所と肩書がありましたが、今はそれもありません。町内会の当番も「妻が亡くなったから」と断り、趣味仲間もいません。
一方、同年代で長年の隣人である河合さん宅は、子どもや孫が頻繁に出入りし、庭からにぎやかな笑い声が響いてきます。
「俺だって子どもも孫もいるのに、なんでこんなに違うのか。いや、一人の方が気楽だ……」
そう自分に言い聞かせながらも、松本さんの胸にはいつしか妬みにも似た感情が芽生えていました。静まり返る我が家には、気安く寄り添ってくれる人は誰もいない。じわじわと孤独が松本さんを追い詰めていきました。
