本当に「効率的なアイデア創出方法」なのか?
アイデアソンには、さまざまな効果が期待できるが、一方でいくつかの課題も指摘され始めている。ここでは、現在指摘されている問題点を検証することで、解決の道を探っていきたい。
①価値創造へ本当に結実しているのか
「本当に価値創造に結実しているのか」という指摘は、アイデアソンの抱える最大の課題である。時間的制約の中で、本当に事業化までを見据えたサービスの開発は難しく、これまでも開催されてきたワークショップや開発イベントと同様、その場限りの取り組みとなっているのではないかとの声も多い。
また、そもそもブレインストーミングは、必ずしもアイデア創出に効率的ではないという研究結果もある。
これまでのイベントに比べて短期間でプロトタイプが「見える化」はできているものの、アイデアやサービスのほとんどが、どこかですでに公開されているサービスの焼き直しであったり、他のアイデアソンで生み出された成果と似ているという声も聞かれる。
さらには、現実の社会的課題の解決にはつながっていないという批判や、市場性のあるサービスを生み出すまでには至っていないという指摘もある。
②多様性は本当に確保されているのか
参加者の同質化という問題もある。よく指摘されるのは、デザイナーやエンジニアの不足である。また多数のアイデアソンが開催される中でにわかに指摘されているのが、「いつも同じメンバーが参加している」というものだ。
どこに行っても同じようなメンバーが参加し、結果として、アイデアソンの特徴であった多様性や異分野の交流という機能が弱まっている状況も見受けられる。実際、渡り鳥のようにさまざまなアイデアソンに出て、新規性のあるアイデアというよりは自分のすでに持っていたアイデアを披露する場として活用する参加者もいる。
アイデアソン自体がまだまだ特定の関心を持つ層にしか理解されていないこと、これまでのワークショップと何が違うのかを明確に説明することが難しいといったこともその要因として考えられるため、アイデアソンの魅力をいかに伝えていくかは大きな課題である。
参加者自身が、価値創造の成果を自覚できないことも
③アイデアソン疲れの危惧
現在危惧されるのが、「アイデアソン疲れ」である。アイデアソンは各地で毎週のように開催され、飽和気味の感も否めない。なかには、これまで数多く開催されてきたワークショップの看板を架け替えただけといったものや、ただのブレインストーミングを行うだけといったケースもある。
参加者自身が、具体的な価値創造の成果を自覚できなければ、アイデアソンに継続的に参加することに疲れてしまい、一瞬のブームで終わってしまう。
アイデアソンを、価値創造の場であると同時に、新たなつながりの形成やコミュニティへの参加の機会としても機能させることで、参加者のモチベーションの維持は可能だと思われる。
アイデアソンへの参加というインセンティブから、共にアイデア創造をする仲間との共創を楽しみたいというインセンティブへ移行させていけるかどうかがポイントになる。
④知財の取り扱い
アイデアソンの課題として、知財の問題を扱わないわけにはいかない。アイデアソンは、自由でオープンな場を通じて集合知を具現化する点に特徴がある。
しかし、裏を返せばそれは、そこで生み出されたアイデアは誰のものなのか、という問題を生み出す。特に企業や大学などの技術や研究成果、知財を活用する場合などはこの問題は避けて通れない。
この点について、IAMAS(情報科学芸術大学院大学)の小林茂教授らが、弁護士の監修のもと、参加同意書のフォーマットとして makeathon_agreement、co-creation_project_agreement 等を作成・発表し、対応を始めている。
いずれにしても、参加者に対して申し込み時点、または当日にアイデアのどの範囲までを自由に扱っていいのかについて同意書を取っておくことや、事前のアナウンスで一定のルールを共有しておくことが望ましい。
この話は次回に続く。