小さなゴールを複数設定し、モチベーションを維持
前回に引き続き、アイデアソンを成功させるための運営ポイントを見ていく。
⑤小さなゴール設定と発想転換の促し
アイデアを実際に商品やサービスとして市場に投入するには、細かな時間管理と小さなゴール設定が重要となる。
このプロセスは、いわゆるリーンスタートアップ(仮説の構築、製品の実装、軌道修正を繰り返しながら、無駄を極力省き成功に近づく開発手法)やデザイン思考のプロセスに近く、プロトタイプを実際のユーザーに使ってもらい、何度も改善を繰り返しながら完成に近づけることになる。
アイデアソンでは、当初は参加者の集中力も高く意欲的だが、時間の経過とともに緊張感がなくなり、また取り組みそのものへのモチベーションも低下することが懸念される。
そこでプログラム設計においては、異なるチーム間での報告の機会や中間報告、ユーザーテスト、相互フィードバックなどの時間を設定したり、メンターからのアドバイスの時間を設けたりすることで、マイルストーンとなる小さなゴールを複数設定し、メリハリのある運営を行うことが有効といえる。
また、発表したり、他のチームの状況を知ることで、いい意味での競争意識を芽生えさせることもアイデアソンがより良い成果を生み出すためには効果的となる。
報告やユーザーテスト、メンターからのフィードバックを受ける機会があることで、発想の転換を促すことにもつながる。つまり、メンターや他の参加者、ユーザーからのフィードバックを受けて、コンセプトや仕様の変更を行う機会が生まれることで、より良いアイデアへと発展していくのである。
アイデアソンの質を高める「参加者間の信頼関係」
⑥参加者の多様性確保
参加者の多様性の確保は、アイデアソンを実り多いものにするためには欠かせない最大の条件とも言える。マーケッター、デザイナー、エンジニア、アナリスト、コンサルタントといった異なる専門性を有する人の参加はもちろん、何よりも重要なのは、課題意識を持つ人や社会起業家といった当事者意識を持つ人の参加の割合が、アイデアの実現に影響する。
アイデアソンで生まれたアイデアが実際に形になるには、何よりも“will”が重要となる。つまり、「この課題を解決したい」、「こんなサービスを創りたい」という強い意志が必要である。そのためには、アイデアソンで扱うテーマに対して当事者性を持った人をいかに巻き込むかが大切となる。
多様な参加者を確保するには、さまざまなコミュニティとの接点づくりを主催者サイドが日常的に行うことが求められる。また、SNS等を活用した呼びかけも必要だろう。加えて、アクセスしたいコミュニティを主宰する団体等とのコラボレーションも有効になる。
⑦参加者間の仲間意識の醸成
短い時間でより良いアイデアを生み出すためには、参加者間の信頼関係が重要になる。関係の質は、結果の質に影響する。つまり、お互いに対する信頼関係があることで、意見を尊重し合うことにつながり、気兼ねなく自分のアイデアを伝えることができる。そのことで新たな気づきが生まれていく。
しかしアイデアソンは、日常では関わり合いの少ない参加者が一緒にアイデア創出に取り組むことになる。多様性を確保したい反面、参加者同士がお互いを深く知らないことで、ぎこちない雰囲気が生まれたり、疑心暗鬼になったり、自分が考えるアイデアはレベルが低くて受け入れられないのではないか、といった不安を抱く場合も懸念される。
アイデアソンの質を高めるには、参加者同士がお互いのことを知り、一緒にアイデアを生み出す仲間としての意識をいかに初期段階で作り出せるかがカギとなる。そのためには、より深いレベルでの自己紹介ワークを行ったり、参加者間の距離が縮まるようなアイスブレイクを行うといった工夫が必要だろう。
また、会場全体の雰囲気づくりも重要で、お菓子や飲み物を用意し、カフェのような話しやすい環境を整えることや、ワークの途中に昼食をチームで一緒に取る時間を挟むなど、参加者間の関係形成、チームとしての一体感を生むための仕掛けにも配慮を行うことが大切となる。