迎えた母の死…遺産はすべて「姉のもの」に
前置きが長くなったけど、本題に入ろう。母親が亡くなってしまった。今度は胃がんだった。まだステージⅡだったので胃を切除したところ、その後、一気に悪化してしまいそのまま逝ってしまった。
ここががん治療の難しいところで、手術後に容体が急変するのが珍しくないらしい。合併症や感染症のリスクがあるわけだ。葬儀を済ませ、少し落ち着いたころに父親から電話があった。
「忙しいところ悪いけれど、話があるから家に来てほしい」
はいはい、相続の手続きね……と思いながら父親から見せられたその書類(遺言書)を見て、びっくりしたよね。
母親が作った公正証書遺言があって「母名義の不動産や現金を姉に全部相続させる」という内容になっていたのだ。
「父さん、これ、いいの? 全部アネキのもので。俺はいいけど、税金とか……」
「あのな、うちの土地はもともと母さんの実家のものなのだよ。お前には申し訳ないけど、母さんが決めたのなら父さんがとやかくいう筋合いでもないのだよ」
「え、でも……」
二人のやり取りを聞いた姉が、目を吊り上げて声を荒らげた。
「シンゴは黙ってなさいよ! あんたなんて家を出てから、ずっと好き勝手していたくせに。私は若い頃から親の面倒を見ているのよ。それにずっとここに住んでいるんだから、家の権利は私のものよ」
「はあ……」
好き勝手って、普通に自立して仕事してきたんですけど?アネキなんてお父さんとお母さんに「面倒見てもらっている」の間違いじゃないの?
でも、アネキは一度言い出したら聞かないし、むしろ俺はこれで実家と縁が切れるかなって思ったのも事実。オヤジのことは心配だけれど、姉とは折り合いが悪いから、同じ空気を吸うのもこれ以上はしんどいわ。
遺言があるので、俺がいなくても姉一人で、実家の名義変更も相続もすべての手続きが終わると聞いて、もう面倒になったのでさっさと帰宅した。この日は、一人暮らしの家に彼女が来ることになっていたしね。
