母が実家に出入りさせていた謎の業者たちの正体とは!?
私、アユミ。45歳、独身。年末、いつもより早めに冬休みが取れ、今日はクリスマスイブ。父を去年に亡くして、実家の母は一人ぼっちのクリスマス。たまには顔を出してあげようか……。
実家に久しぶりに帰ってみたら、見知らぬスーツの男性が母とお茶をしている。
「あら、アユミちゃん、帰ったの」
「ただいま、お客さん?」
「あ、お嬢さんですか。初めまして。住まいコンサルのサカイと申します」
慣れた様子で名刺を差し出す。
「はあ、どうも」
「では、どうぞこちらにサインを。あとはこちらに捺印ください。はい、はい、ありがとうございます。それで結構です。会社に戻って処理しておきますね、では次があるので失礼いたします」
「あら、サカイさんたら、せっかくコーヒー淹れたのよ。飲んでいけば?」
「すみませんが、お気持ちだけ。では、良いお年をお迎えください」
「あら、今年最後なの? また近くに来たら寄ってね? サカイさん」
「はい、ありがとうございます。それでは」
そのサカイとやらは、チラチラと私の顔を見ながらそそくさと帰ってしまった。
「お母さん? 何なの、それ」
「ああ、アユミちゃんには話してなかったかしら。サカイさんはね、とっても親切な方なのよ。あのね、おうちのことに詳しい人でね、先日たまたま家に来られて、屋根の瓦がはがれているのを教えてくれたの。ほら、お向かいのおうち、リフォームしていたんだけれど、その時にたまたまうちの屋根の壊れた瓦が目に入ったんだって。それでね、うちの屋根や雨どいが保険で直せるらしいの。だからその手続きをしているのよ」
「え、それってなんか……何だっけ、火災保険金詐欺とかいうやつじゃないの? ネットニュースで見たことあるけど、大丈夫なの?」
「大丈夫よ。だって修理代は損害保険会社から出るからまったく費用はかからないの。その手続きを代行してくださるのよ。それにね、カレンダーとかクリスマスケーキも届けてくれるし」
「大丈夫じゃないわよ、それ。そんな経費のかかるもの持ってくるってことは、なんかしら下心があるってことに決まっているじゃないの。なんか書類あるなら見せてよ」
「あるわよ、ん、あれ? さっきまでこのテーブルに全部書類を出していたのに、サカイさんたら、間違って持って帰ってしまったのかしら?」
私はすぐにその名刺にある会社名や、サカイのフルネームをスマホ検索した。すると、出てくる、出てくる……!
「サカイ・リフォーム詐欺」「相場では5万円の修理費で済むものを100万円以上の請求をしていたことが判明」「火災保険の更新を断られた」
私はスマホの画面を見せながら、「ほーら、お母さん。サカイは詐欺師よ。危ないったらありゃしない。何、仲良くしてしまっているのよ」
母は「えっ、そんなわけないわよ。それに、仮にそうだったとしてもうちには何の不利益もなく屋根直してもらえるなら別にいいじゃない。そうだ、アユミちゃん。サカイさんにクリスマスケーキいただいたから、一緒に食べましょうよ」
そのケーキはスーパーで売っているような、派手な着色料のサンタの飾りと銀色のアラザンがかかって、ジャリっとした安物のバターケーキ。私は何となく母の言動に違和感を持ちつつ、そのケーキを頬張り、苦いコーヒーで流し込んだ。

