いい口実になった母のがん
そんなタイミングで、母親が乳がんで入院してしまう。
「私、お母さんの看病をしたいから就職はあとにする」と言って、就職活動を辞めてしまった。
看病も何も、幸い、非浸潤(ひしんじゅん)がんで転移がなく、一週間ほどの入院で済んだ。それから20年は経過しているけれど、そもそも完全看護だったし、その後も年に一度の経過観察程度で済んでいる。
姉は母の乳がんを「仕事をしない理由」にしていたとしか思えない。
姉はたまにバイトや派遣社員として働くものの、家にお金を入れるわけでもない。「家事手伝い」「花嫁修業」とか言いながら今に至ってしまい、両親も当初は姉を独立させようとしていたものの、結局は姉の言いなりだ。
父親は娘かわいさで家具でも家電でも姉の好きなものを買い与え、家事は母親任せで食事さえ一切作ろうとしない。それどころか弁当を持たせてもらい、自分の下着一枚洗うことがない。部屋は物であふれていて、典型的な「片付けられない女」だ。
やれ自動掃除機だ、乾燥機付き洗濯機だ、エスプレッソマシンだと家電だけにはこだわりがある。そんないい年をした娘の部屋を、姉がいないスキに母親が掃除機をかけたり、片付けたりしている。
それなのに「お母さん、部屋に勝手に入らないで!」なんて怒ったりする始末だ。親のお金で暮らして、自分が稼いだお金はすべて小遣い。親を連れて旅行すると言いながら、実は〝推し〞のライブ遠征が本当の目的だ。
唯一の仕事といえば、ごくたまに親の通院に付き添うのが関の山。「別にいつでも働けるから」と、派遣やパートの仕事も半年も続かない。繰り返すが、お金は趣味や〝推し〞に全部使い切って、家に一円も入れないのだ。
未婚なのを心配した母親が一時期、結婚相談所にお金を出して姉を連れて行ったこともある。
そこでも「あんなところに登録しているのは、シンゴみたいな低レベルの高卒のバカだけだ」「私は見た目がこんなに若いから年下を探しているのに、全然出会わない。50代の男なんて話が合わない」などとずっと言い続けて担当者を困らせ、結局、相談所も辞めてしまった。
こんな姉に寄ってくる男なんて、実家の金を狙っているとしか思えない。いやそもそも、うちは実家の不動産くらいしか財産はないしなあ……。
確かに俺が通っていた高校のレベル自体は低いかもしれないけど、ずっと正社員で仕事をしてきたから年収は600万円台にはなっている。
そんな話を姉にしたところで「フン! あんたの会社なんて大手のディーラーじゃないくせに」とか言われるのがオチ。……いやいや、業界でのシェアは下から数えたほうが早い会社だけれど、地元のお客様からの信頼はそれなりにあるんだぞ。ロクに仕事をしていない姉を相手にするだけ、時間の無駄というものだ。
