事例からの教訓:親の心情を日頃からケアすることの重要性
今回の事例について、あなたはどう思われますか?
残念ながらどんなに高齢の方であっても、いわゆる「一身上の都合」である結婚は双方の意思に基づいてなされるものです。
仮に父が認知症だったとしても、相手が財産目当てだったとしても「二人の気持ち」が結婚に合意していれば、それを引き留めることは誰にもできないのです。
ただし、例外もあります。
それはどちらか一人が相手に無断で婚姻届を勝手に書いて提出したと判断されるような場合です。このような場合は「婚姻の無効の確認の訴え」を家庭裁判所に提起することができます。
ただ今回のケースですと、配偶者を亡くして寂しさを感じている父親が、家事も思うようにならずに困っている状況で、心の隙間を女性が埋めてくれているうちに男女の関係になり、「じゃあ一緒に住もうか、籍を入れよう」「はい」という流れがあったわけですから、双方の合意があったと判断されます。
タカシが父親の面倒を妹のエミコ任せにせず、もう少しこまめに実家に顔を出していたらどうでしょうか?
タカシが手伝えなくても、業者の家事ヘルパーを頼んだり、電話などで話を聞いたりして父親をフォローしていれば、父親の心も生活もより穏やかに、安定していたのではないでしょうか。
女性の存在がわかった時点での対応も、大きな分かれ道でした。父親を感情的に責めたてるのではなく「そうなんだね、静江さんってどんな人なの? 一度会わせてくれる?」と前向きに対応していれば、結果も随分違っていたことでしょう。
子どもの立場からは「親の恋愛は見たくない。ましてや性的なことなんて」と、生理的に嫌悪感を覚えるのも無理はありません。
しかし、人生百年時代では「老いらくの恋」は特に珍しい話ではありません。60歳以上を対象にしたパートナー探しのアプリが存在したり、介護施設で複数の高齢男性が一人の高齢女性をめぐってケンカになったりすることもあります。介護施設内で、それぞれ連れ合いがいるにもかかわらず、個室で性行為に及ぶというケースまであるそうです。
『北風と太陽』の話ではありませんが、子どもが感情的になれば親も意固地になります。そして、人の恋路は邪魔してはいけないのが基本原則です。周りに反対されればされるほど、親といえども燃え上がり、今回のような極端な結果になってしまうことも十分あり得るのです。
