築浅の優位性が通用しない市場の特殊性
一般的な不動産市場では「築年数が浅いほど価値が高い」という考え方が常識とされています。しかし、コンパクトマンションの世界では、この常識が必ずしも当てはまらないようです。
今回の調査で、対象を築10年以内の物件に絞ったランキングを見てみると、その特殊性がより一層際立ちます。築10年以内のトップは「パークリュクス虎ノ門」(2015年築)で、値上がり率はプラス103.8%でした。2倍を超える高い上昇率ではあるものの、総合ランキングでは33位にとどまります。これは、築10年以内の物件が分譲された時期が、すでにアベノミクス等の影響で不動産価格が上昇基調に入った後であり、新築時の価格(仕入れ値)がもともと高かったため、値上がりの「幅」としては築20年前後の物件に及びません。
さらに総合ランキング上位を占める築20年前後の物件と、築10年以内の物件との間に、中古流通価格で大きな差が生まれていないことは、非常に興味深い現象です。本来であれば20年の築年数の差は、大きな価格差となって表れるはずです。これは、コンパクトマンションの価値を決定づける要因が、建物の新しさ以上に「立地」にあるということ。築10年以内のランキングで港区が9物件と最多を占め、麻布・青山・赤坂の所謂「3A地区」や、再開発で価値が著しく向上した虎ノ門、白金高輪といったエリアの物件が並ぶことからも、その立地至上主義的な性格は明らかです。
では、コンパクトマンションは青天井に値上がりを続けるのでしょうか。
コンパクトマンションはファミリータイプの物件と比較すると、価格が「上昇しづらい」という側面も併せ持ちます。これは一見矛盾しているように聞こえますが、その背景にはいくつかの構造的な3つの要因があります。第一に、スケールメリットがないということ。コンパクトマンションは、ファミリータイプの大型マンションを建設するには不向きな、比較的小さな土地に建てられるケースが多く、建物規模も小さくなりがちです。そのため、大規模マンションやタワーマンションのように、共用施設が充実していたり、管理費や修繕積立金のスケールメリットを享受したりすることが難しいのです。
第二に、居住者の限定。面積が小さいことから、居住者のライフスタイルは単身者やDINKs(子供のいない共働き夫婦)などに限られます。将来的に子どもを持つことを考えるファミリー層はターゲットになりにくく、需要層が限定されることが価格の急騰を抑制する一因となります。
そして第三に、投資家目線での「利回り」の存在です。コンパクトマンションは「貸してよし、売ってよし」の流動性の高さから、投資対象としても人気があります。しかし、投資家は物件価格だけでなく、その物件を賃貸に出した際の家賃収入(利回り)を重視します。周辺の家賃相場からかけ離れた高利回りは期待できないため、そこから逆算される物件価格にも自ずと上限が見えてきます。これらの要因が複合的に絡み合い、コンパクトマンションの価格上昇に一定のブレーキをかけていると考えられるのです。
今回の調査は、都心コンパクトマンションが「立地」と「流動性」を最大の武器に、築年数の壁を越える高い資産性を維持していることを明らかにしました。一方で、その価値形成はファミリータイプとは異なるロジックで動いており、爆発的な価格上昇には一定のキャップが存在することも垣間見ることができました。単身世帯の増加や都心回帰の流れが今後も続くと予想されるなか、どのように市場は動いていくのか、注目です。
[参考資料]
株式会社マーキュリー『築20年超でも高い価格維持率 コンパクトマンション値上がり率ランキング』
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