(※写真はイメージです/PIXTA)

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なぜステーブルコインの発行で米国債への需要が増えるか

ベッセント財務長官は米通信社ブルームバーグとのインタビューで、銀行を含むステーブルコインの発行拡大により(→ステーブルコインに関する包括的な連邦法であるGENIUS法の今後の法制化が発行拡大につながることで)、米国債に2兆ドルもの需要を生み出すことができると述べています。

 

正確には、一部に「ステーブルコインの市場規模は2028年までに2兆ドルになる」との見通しがあり、これに基づけば、米国債で裏付けられるのはその一部と考えられます。

 

ステーブルコインの発行が米国債への需要を生む背景は、前節のとおり、ステーブルコインの発行者は、発行額の100%を米国債(短期債)や中央銀行準備預金などの信用力が高い短期の金融商品で保有するよう求められているためです。

 

このステーブルコインを発行する銀行の分離勘定は、(銀行から与信業務を取り除き、決済のみに特化するという意味で)『ナロー・バンク』の一種と考えられます。

 

これにより、少なくともナロー・バンクの側では、資産である与信と負債である預金のミスマッチが解消され(⇒たとえば資産側からクレジット・リスクやデュレーション・リスク、流動性リスクが取り除かれることで)モラルハザードや銀行取り付け、そして公的部門による銀行救済などを排除することが可能です。

 

米国債の需要に話を戻すと、同じく前節でも述べたとおり、ステーブルコインの発行者である銀行が、分離勘定でのステーブルコインの発行に伴い、本体勘定ですでに保有している米国債や中央銀行準備預金を分離勘定に移管することで、発行したステーブルコインの裏付けとして用いるならば、同行は新たに米国債を「買う」必要はありません。したがって、米国債への新たな需要は生みません。

 

他方で、銀行は、資産(と負債)の構成を最適化したうえでバランスシートにさまざまな資産を保有しています。にもかかわらず、銀行がステーブルコイン発行のために、単に米国債と中央銀行準備預金を分離勘定にどんどんと移管して・振り替えていけば、本体勘定のポートフォリオはその構成が大きく変わり、最適な保有配分から逸脱することになると考えられます。すなわち、銀行は資産ポートフォリオの与信や有価証券を一部減らし、(ステーブルコイン発行のために減少した)米国債を増やす必要があります。これが、ステーブルコインの発行が米国債への需要を生むと考えられる、ひとつの要因です。

 

また、銀行は、流動性カバレッジ比率(LCR)と呼ばれる規制を順守するために、適格流動資産(HQLA)を保有する必要があります。このHQLAの主要な部分は、米国債と中央銀行準備預金で構成されます。

 

したがって、銀行はLCR規制を順守するために、米国債と中央銀行準備預金を保有しておく必要があり、これらの資産をステーブルコイン発行用の分離勘定にどんどんと移管していくというわけにはいきません。これが、ステーブルコインの発行が米国債への需要を生むと考えられる、ほかの要因です。

 

(くじけなければ、次回に続きます。)

 

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重見 吉徳

フィデリティ・インスティテュート

首席研究員/マクロストラテジスト

 

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