ステーブルコインが「資産の避難先」に選ばれるワケ
現時点でのおもな用途は、ビットコインなどの変動性の高い暗号資産(仮想通貨)を取引するときの「資金の退避先」です。
たとえば、ビットコインを売却するときにいったん銀行口座(ドル)に戻すと、あるいは、再びビットコインを購入するときに銀行口座から暗号資産(仮想通貨)の取引口座に再送金すると手数料が高くつき、手間ひまもかかることが想像されます。
こうした際に、いったんビットコインからステーブルコインに交換すれば、相対的に低コストで、変動性がない資産(通貨)に「退避」することができます。
だとすれば、今後、資産運用目的やインフレ・ヘッジを含め、暗号資産(仮想通貨)の保有がより身近になる場合*、なにかを買ったり送金したりするときに、いったん銀行口座(ドル)に移さず、(使い手にとっても受け手にとっても価値の変動がなく、しかも、手数料が低い)手持ちのステーブルコインを使おうという流れは自然かもしれません。
*われわれはなぜ、暗号資産(仮想通貨)が、法定通貨を発行する多くの政府によって許容されているのかを考える必要があるでしょう。それについては別の機会に考えたいと思います。
銀行はどのようにステーブルコインを発行するか
ステーブルコインは、その価値が法定通貨と1対1に対応するものであるため、(1)その発行者に対し、発行額の100%を米国債、現預金(→発行者がノンバンクの場合)、中央銀行準備預金(→発行者が銀行の場合)、米国債のレポ(≒担保付き与信)、これらの資産に投資をしているMMFなどで保有すること、また、(2)発行者の他の資産とは分別管理することが求められます。
ちなみに、冒頭節で述べたとおり、これまではステーブルコインを規制する連邦法が存在しませんでしたが、現在上院ではそれに当たるGENIUS法(the Guiding and Establishing National Innovation for U.S. Stablecoins Act)が審議されています。
では、銀行がステーブルコインを発行する際の流れを考えてみましょう。
たとえば、(ステーブルコインを発行する)銀行の顧客がアプリ上で預金から、ステーブルコインに交換することが考えられます**。
このときの会計処理を考えると、銀行の本体勘定の負債サイドでは預金が落とされ(消され)、ステーブルコイン用の分離勘定の負債サイドでステーブルコインが計上(発行)されます。同時に銀行は、この分離勘定の資産サイドにステーブルコインと同額の米国債や中央銀行準備預金を積む必要があります。
発行当初のうちは、銀行の本体勘定の資産サイドにある米国債や中央銀行準備預金が、分離勘定の資産サイドに振り替える(移管する)ことで、銀行の本体勘定とステーブルコイン発行用の分離勘定をそれぞれ左右バランスさせるでしょう。
**ほかにも、ステーブルコインを発行しない銀行の顧客がその預金を引き出し、ステーブルコインを発行する銀行でステーブルコインを発行してもらうことも考えられるでしょう。これについては、次回に考えたいと思います。
