資本課税は悪手か
この資本課税(それが課される場合、あるいは課される可能性が予見される場合)の影響は何でしょうか。
すぐに思い浮かぶのは、この資本課税が「米国債離れ」や「ドル離れ」につながる可能性でしょう。仮にこの資本課税が嫌気され、米国債やドルに売り圧力が生じれば、需給は悪化し、価格には下落圧力が生じます。
たしかに(現時点では多くの場合、米国からは課税されない)外国の政府にとっては、米国政府から新たに課税されれば、その分だけ期待リターンは低下します。ただし、最大20%の課税であれば、10年債で4.5%程度の米国債には相対的な魅力が残るかもしれません。また、彼らにとって期待リターンの多寡は投資判断基準のひとつに過ぎず、準備通貨としてのドルやドル資産以外の受け皿はほかに見当たらないかもしれません。
他方で、その可能性は極めて低いと考えられるものの、民間の機関投資家やその受益者、あるいは個人投資家にとっては、仮に、(1)この新たな課税が、それらの主体が国外で得る(配当や利息などの)所得に対する課税であると国内の税務当局によって認容され、なおかつ、(2)米国で徴収される税額が、各国内で徴収される所得税額以下であれば、二重課税の回避によって、米国と各国の税務当局に支払う税額の合計は原則変わりません。言い換えれば、この新たな課税の分、所得税の支払い先が国内から米国にシフトすることになります。すなわち、減るのは投資家の税引き後所得ではなく、各国の税収です。
もしくは、こちらのほうが可能性は高いと考えられますが、上記(1)が国内の税務当局によって否認される場合には、民間の機関投資家やその受益者、あるいは個人投資家はこの新たな課税の分、米国への投資に関する税額が増え、米国資産投資の期待リターンは低下します。この場合、問題は、先の政府と同様、米国市場よりも魅力的な市場が存在するかでしょう。
いずれにせよ、米国政府は利払いを節約でき、しかも社債や株式などの利息や配当金からは追加の税収が得られます。
資本課税は嫌われるかもしれないが、投資家自らを助けることになる
なにより、世界中の投資家の多くが望むのはドルや米国債の安定でしょう。
そのためには、米国がある程度の緊縮を行う必要があります。それはおもに増税と歳出削減によって実行されます。資本課税は、米国資産の外国投資家が自ら、(米国への税の支払いによって)ドルや米国債の安定に貢献することになります。
世界中の投資家がドルや米国債の安定を望む理由は、彼らがたくさんのドルや米国債を保有しているからですが、彼らはそれゆえ「ドルの罠」にはまっているでしょう。
次回は、仮想通貨を用いた米国債の安定化政策について2つ考えます。
重見 吉徳
フィデリティ・インスティテュート
首席研究員/マクロストラテジスト
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