今回は、分散投資・時間分散・長期投資という3つの手法について、リスク軽減の効果などを見ていきます。※本連載では、毎年1000を超えるファンドを分析する投信評価会社に所属する「投信のプロ」が、投資信託の基礎知識を世界一わかりやすく解説します。

「極端な価格で投資してしまうリスク」を抑える手法

雑誌やネットで「マネー」「資産形成」「投資」「投資信託」といった、お金に関する項目をみると、必ずといってよいほど書かれているのが「分散投資」「時間分散」そして「長期投資」です。ここでは、これらの投資手法の効果について考えてみましょう。

 

雑誌などで書かれていることは、「投資についてよくわからない人でも、とりあえず、分散投資や長期投資をおこなっておけば大丈夫!」といった語り口が多いです。それだけしていればなんとかなる、収益をあげられるような気になってしまうような書きぶりですよね。まるで三種の神器か打出の小槌のように扱う記事も目にします。投資に二の足を踏んでいる人の背中を押してあげることは良いことですが、つい誤解をしてしまいそうです。

 

私にいわせれば、分散投資や長期投資は、主に初心者の人にとって、想定外の損失やリスクを抑えるために知っておくべき心得といったところです。食事でも、バランスのとれた食事を長く続けていれば、そうしない人よりも体質改善ができます。それによって、必ず病気にならないとまでは言い切れないのですが、病気になる(大きな損失を破る)リスクを軽減し、健康でいられる可能性を高めることができます。分散投資、時間分散、そして長期投資はこういった投資手法なのです。

 

第1回でお話ししたように、投資信託はなんでも盛ることができる万能なお皿です。その機能性を活かして、投資信託はお皿に多くの銘柄を盛っています。逆に、日本の株式に投資する投資信託にソニー1銘柄だけが組み入れられているようなファンドをみたことがありませんよね。数十から数百の株式を組み入れるのが普通です。こうすることにより、特定の銘柄による影響を抑えることができます。100ある銘柄のうち、仮に1社が倒産しても、全体に与える影響は1%に過ぎません。これを分散投資の効果といいます。

 

個別銘柄の組み入れだけでなく、国や地域、通貨を幅広く組み入れることによっても、同様の効果を得ることができます。料理のお皿にソーセージ1品だけをのせるのではなく、キャベツやポテト、マッシュルームなど多くの食材を盛ることで、味わいも豊かになり、栄養の偏りを抑え満遍なく栄養をとることができるようなものです。

 

また、投資信託のスキームは、多くの人から資金を集め、まとまったお金を元手に専門家が運用をおこなう形態なので、個人からみると少額から投資ができます。1万円程度から購入できるファンドがほとんどで、「たったの1万円で世界の株式に投資しましょう!」というフレーズをよく目にします。これは積み立て投資にも向いています。最近では、500円や1000円から積み立てができるタイプも提供され始めました。時間をかけてコツコツと積み立てをおこなうことは、時間分散による投資をおこなうことにほかなりません。

 

積み立て投資に限らずとも、購入するタイミングを複数回に分けることにより、高い価格で一度に購入してしまうことを避けることができます。食事でも、一度にドカ食いするよりも、少量でもよく噛んで、3食しっかりと食べる方が健康に良いですよね。投資タイミングを分けることは価格を平均に近づけることであり、常に良いところで投資できるのではなく、極端な価格で投資してしまうリスクを抑える手法だということを理解しておきましょう。

それぞれの手法を併せて用いることで効果が高まる

さらに、長期間の投資をおこなうことで、短期的な価格変動の影響を抑え、投資する対象がもつ本来の投資成果を得る可能性を高めることができます。株式でも債券でも、投資をすると安定的に期待した通りのリターンを得られるのであればよいのですが、現実にはそのようなことはありません。市場環境などによって価格は変動します。下落することももちろんあります。特に株式のように期待リターンが高いものほど、価格の動きも大きくなりやすいです。でも、長期でみれば、その資産が想定したように成長する可能性が高まり、それにみあった投資成果を得る確率が高まります。バランスの良い食生活も、長期間にわたり続けることで確実に効果が高まりますよね。

 

満遍なく色々なものを食べることで栄養の偏りを抑え(分散投資)、一度にドカ食いをするよりも少量でもよく噛んで3度の食事をしっかりと取る(時間分散)。そして、結果を一気に出そうとせずに長期的に体質改善に取り組む(長期投資)。そうすれば、食生活を改善し、健康悪化のリスクを抑え、良い健康診断の結果が現れるはずです。このように、これらの手法は併せて用いることで、その効果はより一層高まるのです。

 

下図は、過去20年間において、日本債券、日本株式、外国債券、外国株式の主要4資産に毎月均等に投資した際の、投資を始めてからのリターンの分布をみたものです。投資対象を分散して、時間分散による長期投資をおこなう効果が見て取れます。リターンのブレが小さくなり、安定することがわかります。

 

【図表】投資期間によるリターンの分布

 

投資対象の分散投資、投資タイミングにおける時間の分散、長期の投資は、儲かる方法、収益があがる手法ではなく、あくまでリスクを抑えて安定的な投資成果を目指すための手法であることを再確認しておきましょう。

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