高いリターンが期待できる、再投資機能による複利効果
みなさんもご存じのように、良いワインは熟成させるほど深みが増すといいます。身近な料理では、カレーも寝かせたほうがまろやかになります。また最近は、熟成肉など時間をかけることにより食材本来の旨味を引き出す調理法が話題ですよね。
投資信託にも熟成により効果が高まるものがあります。それが、投資信託の優れた機能の1つである再投資機能です。これは、利息や配当などを決算の都度、分配金としてファンドから払い出すのではなく、そのまま投資信託に残して再運用するものです。この機能は現物の株式や債券はもとよりETFにもない機能です。これがどうして優れた機能なのでしょうか? それは、複利効果をもたらすからです。複利効果は、時間をかけることにより大きなリターンの違いとなって表れます。
世間では複利効果について、「こんなに低金利なのだから、複利といってもほとんど影響ないでしょ...」と思っている人が多いです。たしかに、私たちの身近な銀行預金では、複利効果はほとんどありません。それは銀行預金では複利効果の対象は預金利息だけなので、金利水準がこれほどまでに低下してゼロ近辺になれば、複利にしても利回りにはほとんど影響がないからです。
0.1%の金利で20年間運用しても、2.02%にしかなりません。0.1%×20年=2%なので、複利部分の効果は20年間でもたったの0.2%です。これでは複利なんて気にする必要もありませんよね。
それに対して、投資信託などの投資商品の場合は違います。投資信託は価格が変化しますよね。その価格上昇分も、金利利息と同じく複利効果を生むのです。これは、投資に関わる機会がある人、学ぶ機会がある人であれば常識的なことですが、普段から銀行預金だけしか取引がない人にとっては、意外と知られていないことです。
たとえば、金利利息や配当が0%だとしても、年間3%値上がりすれば、20年間では当初投資した金額の1.8倍になります。80%のリターンを得られます。でも、毎年の値上がり益3%を分配してファンドから吐き出すと、分配金込みでも1.6倍止まりです。その差は20%も違います。これこそが複利効果なのです(図表1ご参照)。
逆に、値上がり益以上にたくさん分配するとどういうことが起こるのでしょうか? 仮に、当初の投資元本に対して毎年6%を分配すると、分配金込みで20年後には1.4倍にしかなりません。40%のリターンです。どうでしょう? もちろん、分配されたお金はリターンを生まないことを前提に試算していますが、ものすごく大きな差になりますよね。すべてを再投資したリターンと、値上がり以上に分配金をファンドから吐き出したリターンでは倍近い差が生じます。
投資は資産を増やすためにおこなうので、長期でみれば投資成果のありそうなもの、値上がりを想定して投資をします。損をすると思って投資する人はいません。そうであれば、ますます再投資機能を活かさない手はないのです。
【図表1】再投資の効果と分配による影響
「分配金が高いファンド=良いファンド」とは限らない
投資信託では、一時ほどではなくなりましたが、依然として高い分配金が支払われるファンドが人気です。現在のように世界的な低金利にもかかわらず、10%を超える分配金利回り(分配金を基準価額で除して年率の利回りに換算したもの)のファンドがたくさんあります。日本の株式投信における純資産残高の上位300ファンドを指数化したMAB投信指数(MAB 300)でみると、分配金利回りは7%近い水準です(図表2ご参照)。これは、投資信託の再投資機能を活用していないことになり、さきほどの例のように、長期でみた場合にはリターンに大きな差が生じる可能性が高いのです。
三菱アセット・ブレインズでは、MAB投信指数(MAB 300)の動きを日々ホームページで公表しています。投信全体がどのように動いているのかご興味ある人はご利用ください。
【図表2】MAB投信指数(MAB 300)における分配金利回り
過度な分配金が健全な資産形成を阻害しているのではないかとの指摘が増えてきたこともあり、分配金は銀行の預金利息とは違うことへの理解は進んでいますが、それでも、未だに分配金が高いファンドは良いファンドのような誤解も一部にはあるようです。
販売会社や運用会社のホームページには月報(マンスリーレポート)などの資料が掲載されています。分配金の水準とともに、分配した後の実際の基準価額と、仮に再投資した場合の基準価額の推移をよく確かめて、分配金が必要ないのであれば、再投資するファンドを選ぶことも大切な投資信託選びの1つといえるでしょう。
分配金を過度に支払うことは、熟成させる前にワインを飲んでいるようなものです。もちろん、ボジョレー・ヌーボーのように、最初から熟成させることを前提にしていないワインもあります。ワインも肉も魚も、なんでも熟成させればよいというものではありませんが、投資価値が高いもの、潜在的な期待リターンが高いものほど、再投資機能によって高い熟成の効果を得ることができるのです。