年齢やリスクに関する簡単な質問に答えるだけで・・・
金融の世界ではフィンテックが花盛りです。話題のAI活用もその1つです。
実はフィンテックは今に始まったことではありません。金融において革新的なテクノロジーが導入されたことは過去にも幾度となくあります。たとえば、歴史の長きにわたって紙で発行し保管されていた株券は、電子化されてペーパーレスになりました。株券の時代には、株式が売買されると売り手から買い手に実物の株券を移動させたのですが、現在の株券は電子帳簿で書き換えられることができます。
これにより信託銀行の株式保管業務は必要なくなりました。株式の売買も、以前は電話で注文を取り次ぎ、取引所の場立ちと呼ばれる人たちを通じて売買されていましたが、今ではスマートフォンからの注文は電子取引によってシステム上で瞬時に売買が成立します。
このように、フィンテックはその時代において革新的なテクノロジーが金融に取り入れられることを指します。それがビジネス構造の変化を伴う場合には、業界地図を塗り替えることさえあります。
資産形成の分野における代表例はロボアドバイザーです。投資の初心者でも年齢や希望するリスクの大きさなど数個の簡単な質問に答えるだけで、お勧めの資産配分を提示してくれます(図表1参照)。金融機関のなかには、資産配分の提示だけでなく実際にどの投資信託を購入したらよいのかまで誘導してくれるもの、また、シミュレーション結果に基づいた資産配分パターンを1つの投資信託で提供してくれるものまであります。
映画における近未来のワンシーンで、「年齢や体調、その日の気分をインプットすれば、カロリー、塩分、栄養バランスを考慮し、自分にあった料理をロボットが選んで作ってくれる」、こういったイメージでしょうか。
[図表1]ロボアドバイザーによるポートフォリオ例
ポートフォリオ理論に基づいた最適配分を提案
ロボアドバイザーの良いところは、いままで私たちが投資信託を購入する際におろそかにしていた資産配分(ポートフォリオ)の考えが基本にあることです。第19回「資産形成における「ポートフォリオ」の重要性と構築のポイント」でお話ししましたが、ポートフォリオはリスクを抑え投資効率を高める効果があります。
投資信託におけるポートフォリオの発想はロボアドバイザーが最初ではありません。以前から、複数の資産を組み入れたバランス型ファンドと呼ばれる投資信託があります。積極的運用として株式を多く組み入れるもの、安定的な運用として債券を多く組み入れるもの、その中間に位置するもの3パターン程度をシリーズで提供するタイプが主流です。
しかしながら、私たちが資産形成において投資信託を購入する際に、資産配分の考え方は積極的には提供されてきませんでした。金融機関の窓口で資産形成の相談をしても、顧客がどういったものに興味があるのか意向を聞き出して、それにあった特定の資産に投資する商品を提供する姿勢が強かったのではないでしょうか?
たとえば、高い金利を志向する人にはハイイールド債券、分配型を志向する人にはリートといった具合です。公募販売の投資信託全体において、複数の資産を組み入れたバランス型ファンドの構成は10%程度にすぎません(図表2参照)。
[図表]日本の投資信託における投資資産の構成
その観点からすれば、ロボアドバイザーによる資産配分(ポートフォリオ)の提示という考え方は、長期の資産形成において、いままで見過ごされがちであった大切な部分を補う役割を果たしてくれることが期待できます。こういったツールの進展は個人の資産形成にとっても好ましいことです。
ロボアドバイザーによる資産配分(ポートフォリオ)は、どの会社が提供しているサービスを用いても内容に大差はないはずです。質問は異なっていても、その質問によって把握しようとする事項は個人の許容リスクが中心でほぼ同じです。その結果を用いて算出される資産配分のベースは、ポートフォリオ理論に基づいた最適配分によるものです。
リートが組み入れ対象になっているかどうかなど、対象資産の種類による違いはありますが、どこのツールを使うのかを過度に気にする必要はないでしょう。むしろ、その配分結果にもとづいて、どのような投資信託を購入するのかには注意を払いましょう。資産の配分そのものに意味があるので、その配分に応じた費用の低いインデックス型の投資信託が向いています。
ロボアドバイザーは、金融機関の販売担当者の仕事を奪う競合ツールとみなす向きもありますが、コンサルティング営業の有効なツールとして活用することができます。簡単な質問をもとに結果を示すロボアドバイザーは、個人がこだわる点を十分に反映しているとは限らないので、その点のフォロー、顧客ニーズの具体的な反映は販売担当者の役割です。
ただ、この手の技術は日進月歩で進化するものです。将来的には、お金に関する様々な面で専門家の知識をITが担うサービスが増えていくことが予想されます。質問に答えるだけでその日の料理のレシピが出てくれば、考える手間が省けて便利ですけど、少し味気ないかもしれませんね。