「奮闘する息子に、老後の心配はかけられない…」
しかし、山田さんはすでに後期高齢者だ。最近はめっきり年齢を意識するようになった。
「もともと体が丈夫なほうではありません。最近は足腰がひどく痛んで、日常生活にも支障が出るようになりました。このまま独り暮らしは不安だし、だからといって、ひとり頑張っている隆の世話になるわけにはいきません。だから老人ホームに入ろうかと…」
明子さんが目を付けたのは、住まいの近所にある比較的安価な介護付き有料老人ホーム。入居一時金は約300万円、月額費用は18万円とかなりリーズナブルだ。
「近所の仲良しのお嬢さんが介護関係の仕事をしていて、ありがたいことに施設を調べていくつかリストをくれたんです。そのなかでいちばんリーズナブルなところに申し込みました」
「これで隆に迷惑をかけないですみます。奮闘する息子に、老後の心配はかけられません。あとは自分のことに集中して、精一杯がんばってもらえれば…」
山田さんは、ひとり息子の隆さんに報告の電話をした。
「もしもし…?」
明子さんは、隆さんと体調や最近の様子などの近況を報告し合うと、本題を切り出した。
「お母さん、施設に入ることにしたからね。これでお母さんの老後、あなたに迷惑も心配もかけることないから、安心してね?」
