公認会計士として監査法人で働いていた当時に感じていたモヤモヤ
監査法人で働いていた当時は、監査業務に充実感が得られないというモヤモヤがあったのですが、その理由は分かりませんでした。
スタートアップ支援税務に関わるようになって、その仕事と比較してみると、当時抱いていた違和感をかなり明確に認識できるようになりました。
それは次の3点にまとめられます。
学んだ専門知識が存分に活かせず、将来に不安
監査業務にやりがいを感じられなくなった理由の一つは、誰でもできそうな作業的な部分が思いのほか多かったことです。若手監査スタッフの場合は特に当てはまります。
例えば、会計帳簿と証憑を突き合わせて取引の実在性を確認するバウチングやトレーシングの作業、経理部で作成した数字のチェック作業自体は、公認会計士資格がなくてもできる部分があります。監査現場においては、この手の作業が7~8割を占めています。取引の会計的な意味を推測したり、不整合の理由を追及したりするような、高度で専門的な会計知識が必要とされる部分は、せいぜい2~3割ではないかと思われます。
もちろん、突合作業は監査において必要であり、事実の確認なしにどんな推測も成り立ちません。しかし、せっかく必死に勉強して難関試験に合格し公認会計士になったにもかかわらず、仕事のかなりの部分が作業的なものでは、自分の能力を発揮しきれないと感じられても不思議ではありません。
インチャージの上席、マネージャーやパートナーになれば、より全体を見渡して数字の背後にある取引を推測したり、会計的な判断をしながら方針を立てたり、企業との交渉にのぞんだりする業務が中心になります。しかし、実際、監査法人でパートナーになれるのは、一部の優秀な人だけです。
自分がインチャージになる頃には、自分の伸びしろがなくなってきているのではないか、せっかく学んだ専門知識をもっと活用できる仕事がほかにあるのではないかと考えるようになりました。それが、監査法人以外のキャリアの模索につながりました。
顧客の経営への貢献が実感しづらい
監査は顧客(クライアント企業)の求めに応じておこなわれます。しかし上場企業の場合、法定監査は義務であり、それを実施したところで売上や利益が伸びるわけではありません。企業にとって必要なものではありますが、通常は企業価値そのものを向上させるものだとは認識されていません。また、監査業務に応対するのは通常、経理部長、場合によってはCFOであり、経営者が直接関与する機会はほとんどありません。
これらのことから、監査業務は顧客企業にとって必要なことだと理解していても、顧客企業の価値向上や経営の改善などに貢献していると実感しにくいのです。
「未来」に向けてゼロから1を生み出す仕事ではない
監査業務は本質的に、なにか新しいものを生み出す業務ではありません。過去の取引やその記録について、不正や不備がないかをチェックしたり、いわばマイナスをゼロに戻すための指摘をしたりする仕事が監査業務であり、「未来」に向けてゼロから1を創造する仕事ではないということです。それが「良い」とか「悪い」とかいう問題ではまったくありません。
しかし、私は監査法人の中でインチャージクラスになって監査業務の経験が増えれば増えるほど、監査業務に飽き足りなくなっていったことは事実です。
そして、会計や財務の専門知識を活かしながら、顧客企業の経営に直接コミットして支えたり、ゼロから1を生み出すお手伝いをしたりしたいという意識が強くなっていきました。それが臨界点に達したとき、監査業務以外の仕事への転職へと至ったのです。
