スタートアップ企業の赤字つづきは織り込み済み
スモールビジネスでは、毎年着実に売上と利益を増やしていくことが望まれます。赤字に陥ることは避けなければならないことだと、経営者も税理士も考えています。スモールビジネスが赤字になった場合、気の利いた税理士なら、例えば広告宣伝費を削るなどの費用削減を図りましょう、と言ってアドバイスをするかもしれませんし、経営者もそれに納得すると思います。
特に、銀行融資を受けている、あるいは受けたい場合はそうなります。利益が出ていない企業に対しては、銀行は厳しい態度を取ります。そのため、経営者も税理士も、どうしても黒字が出ている見栄えの良い決算書を作りたくなるのです。
しかし、スタートアップに対しては、そういったアドバイスは当てはまらないことも多いのです。例えば、スタートアップは、VCから資金調達して中小企業としては高額な給与を支払って、何人もエンジニアを雇い、プロダクトの開発をします。開発段階なので売上はゼロで、赤字が続きます。
それに対して、「そんなに何人も開発者がいるなら、一部で受託開発をして、売上を作ってはどうか」といったアドバイスをするのは、まったく的外れな場合があります。そもそも資金調達をしたのは、売上がゼロでも開発を進めるためなのに、自社サービス開発に割くリソースを減らすことは、本末転倒でしかありません。
そんなことをすれば、出資したVCは「受託なんかして目先の売上を作る余裕があるなら、もっと自社サービス開発に人を回せ」と怒るかもしれません。
また、マーケティング費用も同じです。調達した資金の大半をマーケティング費用に使って、大きな赤字を作りながら一気に市場と顧客を獲得して、その後長期にわたって回収するということも、スタートアップの戦略としてよく採用されます。そんなときに、赤字だから広告宣伝費を削ろうというのがおかしいことは明らかです。
スタートアップの事業においては、プロダクトのPMFを早期に実現することがなによりも重要であり、そのために可能な限りリソースを"全振り"するのが正しいスタートアップの経営です。スタートアップはフルスイングすることを求められているのです。
このように、スモールビジネス的な発想ではスタートアップ支援税務はできません。スタートアップの経営目的やビジネス構造を理解したうえで支援やアドバイスをおこなうことが求められます。
