法人設立をすれば、財産分散による節税も可能に
法人設立のメリットは数多くありますが、財産を分散できるのもそのひとつです。
そもそも法人を設立するのも、父親から子どもの会社に財産を移し、不動産を株式に変えて評価を低くしたり、会社がその財産を使って収益物件に投資できるようにするためです。その上で、父親も、子どもの会社に譲渡して得た現金を贈与税の非課税枠を使って、相続人に分散して承継しておくことが可能になります。
一方、その法人にとって経費計上ができるのも大きなメリットといえます。個人では、こうした経費計上には制限がありますが、法人であれば、それが適切な範囲内である限り、経費計上ができるわけです。
例えば生命保険は、法人名義で加入すれば支払った保険料を経費として計上できるメリットがあります。後述しますが、保険会社も法人向け生命保険として商品化し、積極的に販売しています。
かつては全額損金として計上できる生命保険もありましたが、現在は半額損金にできるタイプが主流になっています。それでも、個人であればわずか4万円程度の生命保険料控除が使えるだけですが、法人であれば全額、もしくは半額が経費で落とすことが可能です。
また、車を会社名義で買えば自動車関連の経費を損金として計上できます。
自宅を会社所有にして社宅としてしまう方法もあります。そうすると、減価償却費、固定資産税、火災保険、管理費用等々の費用を損金として計上することができます。むろん、会社名義の自宅を経費として使うためには、家賃を会社にきちんと支払う必要がありますが、決められた方法によって家賃を計算すれば問題ありません。詳しくは税理士に相談して決める必要がありますが、法人を設立していればこそ可能な節税方法です。
経費というのは、このほかにもいろいろと使い勝手があります。
例えば法人設立の際の定款に「海外不動産投資」といった項目を入れてハワイなどに収益物件を保有しておけば、現地の不動産の視察に、会社の経費を使って夫婦で出掛けることも可能かもしれません。ただその場合は、現地でのスケジュール表なども事前に作成して記録しておくなどの工夫は必要です。また、実際に現地に物件を保有していれば、往復の旅費ぐらいは経費として計上できるかもしれません。
役員はやみくもには増やさない
法人の運営で注意したいのは、所得分散ができるとはいえ、やみくもに役員を増やしてしまわないことです。また、役員と従業員は別であり、役員には経営に参加してもらうための活動内容が問われることになります。
その点、単なる従業員の場合は、それに見合った労働をしてもらう必要があり、その記録も残す必要があります。ですから、業務日誌などをつけて、その法人でどんな仕事をしたのかを明確にしておくとよいでしょう。そうしないと、税務当局から「架空給与」ではないか、といった疑惑を持たれてしまいます。
一方、役員の役務や責任に対しては、正当な基準の役員報酬を支払わなくてはなりません。そもそも役員に求められるものは、経営判断や、取締役会への出席がメインの仕事になります。通常の従業員のように○時間働いたからこれだけの賃金というものではありません。かといって、仕事らしい仕事を一切せずに多額の役員報酬を受け取るのも問題があります。
役員によって役割分担をきちんと明確にして、例えば物件の管理業務の役員は母親、賃借人との対応は娘、新規物件のマーケットリサーチは息子、という具合にきちんと分けておくといいかもしれません。
通常の節税本などでは「役員の数をどんどん増やすことがベター」のような書き方をしているものが多くなっていますが、役員の数を単純に増やせばいいというものではありません。役割分担をきちんと決めて、役員報酬の正当性を税務署に説明できるようにしておくことが大切です。
奥さんや子どもを役員にした場合は、月々の報酬を支払うことになりますが、支払われている報酬に見合った執務実態があるのかどうかがチェックされます。会社から奥さん名義の銀行口座に、毎月決まった日に役員報酬が振り込んであるか、そして、その実態が「証拠」として残っているかに注意を払ってください。