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野口流、棚卸し体験
これまでのキャリアに踏ん切りがついた私は、自分なりの棚卸しに着手しました。
いったい自分の中に何があるのかな、と考えたとき、真っ先に思い浮かんだのは、発信力。これはひいき目なしで、強い。そう思ったんです。
私なりに発信力の強さを感じたのは、国際宇宙ステーションで長期滞在中の2020年11月に開設したユーチューブチャンネルでした。宇宙から、80本余りを配信しました。企画から撮影、出演まで、ひとり何役もこなし、まさに、ひとり放送局でした。
「宇宙からナマの『宇宙暮らし』発信してます!」をテーマに、国際宇宙ステーションの船内案内や、宇宙食の食レポ中継、宇宙を360度見渡せる「キューポラ」から地球の生の姿も4K映像で配信しました。
「宇宙からのショパン生演奏」の回では、「ユーチューブ クリエイター アワード」を受賞しました。世界中から反響をいただき、チャンネル登録者数は10万人に達しました。
それ以前にも、BS番組「宇宙ニュース」で1年半にわたってアンカーマンをしたこともあります。これほど、各種媒体を使って情報発信した宇宙飛行士も珍しいのではないか、と我ながらに思います。
ただ、数撃てば当たるみたいな発信をしたわけではありません。国際宇宙ステーションからユーチューブで配信したときは、カメラを固定して船内映像を垂れ流しするようなことはしませんでした。
付加価値を大切に
私が発信するユーチューブは、私が伝えたい映像であり、私がこだわったシーンでした。そこに「付加価値」があると思い、とにかくこだわり抜きました。
こうした体験が、JAXAを退職した後、さまざまなメディアに登場して発言していくときの礎になっていることは間違いないと思っています。
ツイッター(当時、現X)で身に着けた言葉選びのスキル
もう一つ、インパクトのある言葉選びができるようになったと思います。宇宙飛行士時代、子どもたちを相手に講演会をすると、「分かりやすい」「ワクワクする」といった反響がありました。
宇宙滞在中には当時のTwitter(現X)で上限の140文字に入れる言葉を一生懸命、毎日選んでは発信していました。結構な文章量でしたし、ワードセンスみたいなものも明確に身に付いているな、と感じたものです。
もともと、著作も重ねてきました。最初のフライトの年には、『宇宙日記―ディスカバリー号の15日』(世界文化社)、『スィート・スィート・ホーム』(木楽舎)、『オンリーワンずっと宇宙に行きたかった』(新潮社)という三冊の本を一気に出版しました。その後の著作も含めると、刊行した著書は十冊になります。
こうして、JAXAとNASAの組織人としての日々を送りながら、宇宙飛行士の活動と内面を言葉にして表現する営みを続けてきました。
私は、自分自身の棚卸しによって、他の宇宙飛行士とはちょっと違うスキルが私の中に見つかり、この得意技を使ってセカンドキャリアに踏み出せるのではないかと思ったわけです。
