中学受験での体験が、早生まれの脳に与える影響
早生まれだからといって脳の能力が劣っているわけでも、本来の学力が低いわけでもありません。ただ中学受験の段階では、発達の差が残っているか、もしくは早い段階で遅生まれの子との間に成績に差がつくことで、自己肯定感を下げている可能性があるかもしれません。
私が自己肯定感と能力の関係をご説明してきたのは、自己肯定感は早生まれ族の能力を伸ばすキーになるからです。
脳は「努力」と「褒める」で、物理的に良い方向へ変化していきます。ですから間違っても、中学受験を「叱る機会」にして、自己肯定感を下げてはいけないと思います。不利な状態で臨まなければならない中学受験では特に、成績という「結果」に着目するのではなく、勉強をするという「努力」に着目したほうが良いと思うのです。そして「努力」に注目したほうが、自己肯定感が高まるということは、お話してきたとおりです。自己肯定感が高まれば、自ずと成績は上がっていきます。
ですから、自己肯定感をわざわざ下げるような物言いはやめたほうが良いのです。「早生まれだから成績が悪い」といった、子どもに呪いをかけるような発言は、どんなにイライラしても我慢したほうがいいでしょう。
では「早生まれだから仕方ない」といった声かけはどうでしょう。小学校の先生に話を聞いたところ、こういった声かけには、プラス面とマイナス面の両方があるといいます。
プラス面は、子どもを追い込まずにすむことです。頑張りすぎて心が折れる危険を、この言葉で回避することができます。しかし、マイナス面もあります。もっと頑張れるのに「早生まれだから仕方ない」と、自ら努力することを諦めてしまうことにつながるというのです。
「早生まれだから仕方ない」という言葉には、こういったプラスとマイナスの側面があることを理解しておきましょう。
参考文献・資料
*1 川口大司、森啓明。『誕生日と学業成績・最終学歴』。日本労働研究雑誌49 (12)、 29-42、2007-12
*2 国際数学・理科教育動向調査(TIMSS):算数・数学及び理科の到達度に関する国際調査。小学4年生、中学2年生が対象。4年ごとに行われる。
*3 OECD 生徒の学習到達度調査(PISA):国際的な学習到達度に関する調査。15歳児を対象に読解力、数学的リテラシー、科学的リテラシーの三分野について、3年ごとに行われる。
瀧靖之
東北大学教授
