存在証明と評価額の妥当性は…?
納税者の主張
Aさんは、当初申告した美術品の一部について、申告後に所在が不明となったことを理由に、「相続開始時に実在していなかった可能性がある」と主張しました。
また、当初の査定を行ったC社は現物確認を行っていなかったことから、その評価額の信頼性に疑問があるとし、後日、別の業者D社による再査定で大幅に下がった評価額こそが、相続開始時点での適正価格であると主張しました。
税務署の主張
これに対して税務署は、Aさん自身が当初の相続税申告で美術品の存在を前提に財産に含めていた点を重視。Bさんがこれらの美術品を売却・処分した形跡もなく、「相続開始時に存在していなかった」とするAさんの主張には合理的な根拠がないと反論しました。
また、査定をしたC社はBさんが生前に購入・取引した業者であることや、評価の時点が相続開始に近いことなどから「精通者意見価格」として妥当であるとしました。
一方で、Aさんの主張の根拠となるD社による再評価は相続開始から4年以上経過したあとに行われたものであり、当時の市場価格を反映しているとはいいがたく、評価時点として不適切であると指摘。加えて、両社の査定額に著しい開きがあるにもかかわらず、両社の評価方法の違いや金額の根拠が具体的に示されていない点も信頼性に欠けると指摘しました。
審判所は、税務署の主張を支持
国税不服審判所は、税務署の主張を支持しました。
まず、美術品の存否については、Aさん自身が当初の相続税申告において美術品を相続財産に含めて申告していたことから、「後に所在不明となったとしても、相続開始時点で存在していなかったとはいえない」と認定しました。
また評価額の妥当性についても、相続開始時に近接した時期に行われ、Bさんとの取引関係にあったC社による査定額は時価評価としての客観性・信頼性が高いとし、D社による再評価は、相続開始から4年半以上経過後に行われたものであり、当時の市場価格を反映しているとはいいがたいとされました。
さらに、両社の査定額に大きな差があるにもかかわらず、その理由や評価方法が具体的に説明されていなかったことも問題視されました。
結果として、申告時に用いられたC社の査定額が「相続開始時の時価」として妥当であり、再査定に基づく減額請求には合理的な根拠がないと結論づけました。
まとめ
本件では、相続税の申告における美術品の評価について、「存在の証明」と「価格の合理性」という2つの観点から厳密な判断が下された事例です。
美術品のみならず相続財産一般にいえることですが、申告後に所在がわからなくなったからといって、「なかったこと」にすることはできません。
また、申告者自身が作成した申告内容については、その正当性を説明する責任があるという事実も示されました。
相続財産に含まれる美術品などを正しく評価するためには、査定時点・評価者の信頼性・査定方法の妥当性がそろって初めて、正当な「時価」として認められます。美術品などは人によって価値の感じ方はさまざまですが、自分の感覚だけで判断するのではなく、税法上の評価ルールに則ってしっかりと処理する必要がある点は知っておきたいところです。
高橋 創
税理士
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