自分の相続が心配
紀子さんは今年50歳。大学を卒業後、上場会社に勤務して20年以上になります。会社では本社で人事を担当しており、部署のリーダーとして活躍されています。定年が65歳になったので、とりあえずは定年までは働くつもりということです。
そんな紀子さんが半休をとって、相談に来られました。
親の相続のことが気になる年代ですが、紀子さんは自分のことだといいます。
紀子さんの父親は30年前に亡くなりました。その後、紀子さんは母親と2人で暮らしていたのですが、母親も10年前に亡くなったのです。紀子さんには兄が1人いますが、その兄が悩みの元だといいます。
母親と同居して看取ってきた
紀子さんはずっと実家暮らしで、父親が亡くなってからも母親と2人暮らしをしてきました。5歳上の兄は大学を卒業後は家を離れたのですが、仕事を転々としており、たびたび母親にお金の無心をしていました。
そんなときしか実家に帰ってこない状況でしたが、母親は兄のことを無下にはできなかったようで、自分が働いて残してきたお金を渡していたようです。
母親が80代になり、介護が必要になった頃、紀子さんはフルタイムで働いていたため、1人での介護に限界を感じ、兄にも協力を求めました。しかし、まったく手伝う気はない様子でした。そこで、「実家に来ても世話ができないのなら、せめて介護費用を負担してほしい」と伝えましたが、それも拒否されてしまいました。
結局、母親の介護は紀子さんが一人で担うことになり、最期も紀子さんが看取ったのでした。
母親には遺言書を書いてもらっていた
母親は父親が亡くなった後、ローンを借りて自分で戸建ての自宅を購入していましたので、それが母親の主な財産で約3,000万円。相続評価は1,500万円でした。母親は、家は同居する紀子さんに渡す、預金500万円程は2人で等分に分けるようにと言っていましたので、自筆の遺言書を作成してくれていました。
紀子さんは亡くなったときにはその遺言書で自宅の名義を変更し、葬儀費用を出して残ったお金を兄と等分に分けるようにして、母親の相続は終えることができました。実家にほとんど帰っても来ない兄ですので、母親の遺言書を見せると納得したようでした。
その後は絶縁状態 どこにいるのかもわからず
母親の葬儀の際は、叔父や叔母に連絡をする必要がありましたので、叔父から兄に連絡をしてもらうことで、兄にも連絡がつきました。葬儀の際は、表向けには“喪主”としましたので、兄の体裁も保てたというところです。すべてを任せっきりにして「おいしいところ」だけ持っていった兄に、紀子さんは内心はらわたが煮えくりかえる思いでしたが、母はそんな兄でも可愛がっていました。典型的な「長男教」でした。
相続の手続きは紀子さんがすべて行い、現金を渡すときには実家に帰ってきたものの、その後は連絡がつかず。その後、また転居したようで、どこに住んでいるのかも、わからない状態だといいます。
自分の相続人は兄だけ
紀子さんは、母親から相続した家以外に、ずっと仕事をしてきて貯めた預金があります。現在、紀子さんは独身でひとり暮らし。今のところ、結婚する予定はないため、このままであれば、配偶者、子どもがいない“おひとり様”となります。そうなると、紀子さんの法定相続人は「兄」だけということです。
紀子さんはまだ50歳ですが、ほどなく母親の13回忌を迎えるので、自分の相続のことも気になり始めて、相続事例のコラムなど読んで相談に来られたということです。
紀子さんは「兄と絶縁状態。父の介護も母の介護にも加わらず、お金の援助もなかった。自分の相続の際、兄に財産がいかないように赤十字などに遺贈したい。公正証書遺言を作成したい」と。意思は明確でした。
「人生100年時代」といわれる今、いつ何が起きるか分かりません。自分の意思がはっきりしているうちに書き残しておかないと、その思いは実現できないこともあります。たとえ相続がずっと先の話だと思える若い世代であっても、遺言書を作成しておくことは大切です。
紀子さんの意思を確認して、「公正証書遺言」を作成することになりました。公正証書には証人が2人必要ですので、私が担当する予定です。
1円も渡さなくてよい?きょうだいには遺留分がない
遺留分とは、「一定の相続人に対して法律で最低限保証されている相続分」です。
これは、被相続人(亡くなった人)が遺言などで全財産を他の人に譲ろうとしても、法定相続人の一部に対しては最低限の取り分を残さなければならないというルールです。
ただし、この遺留分が認められているのは次の人たちだけです:
- 配偶者
- 子(またはその代襲相続人)
- 直系尊属(父母など)
この中に きょうだい(兄弟姉妹)は含まれていません。きょうだいは被相続人と同じ世代の親族であり、扶養義務の関係が薄いためです。
一方、配偶者や子、親などは被相続人と生活・扶養の関係が深いため、法律で保護される必要があると考えられています。
そのため、被相続人が遺言で「全財産を第三者に渡す」としても、きょうだいには異議を唱える(遺留分侵害額請求をする)権利がないのです。
まとめ 遺言書を作って不安のない生活を
紀子さんは公正証書遺言を作成することでこれから安心した生活ができるとほっとしておられました。まだ50歳なので、70代、80代になれば「死後事務委任」をするようなアドバイスもしています。
- 自分の意思を残す公正証書遺言を作成すれば意思が実現する
- 赤十字など、遺贈先を決めて遺言書に明記する
- 遺言書を実現する遺言執行者を決めて明記する
- 遺留分は「配偶者・子・直系尊属」にのみ認められる
- 兄弟姉妹には遺留分の権利はない。兄には1円も渡さなくて済む
曽根 惠子
公認不動産コンサルティングマスター
相続対策専門士
相続実務士®
株式会社夢相続 代表取締役
◆相続対策専門士とは?◆
公益財団法人 不動産流通推進センター(旧 不動産流通近代化センター、retpc.jp)認定資格。国土交通大臣の登録を受け、不動産コンサルティングを円滑に行うために必要な知識及び技能に関する試験に合格し、宅建取引士・不動産鑑定士・一級建築士の資格を有する者が「公認 不動産コンサルティングマスター」と認定され、そのなかから相続に関する専門コースを修了したものが「相続対策専門士」として認定されます。相続対策専門士は、顧客のニーズを把握し、ワンストップで解決に導くための提案を行います。なお、資格は1年ごとの更新制で、業務を通じて更新要件を満たす必要があります。
「相続対策専門士」は問題解決の窓口となり、弁護士、税理士の業務につなげていく役割であり、業法に抵触する職務を担当することはありません。
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