(※写真はイメージです/PIXTA)

現在は高額療養費制度改正に関する議論が波紋を広げています。かつて1980年代――日本の医療制度における大きな見直しが行われました。当時、どのような背景のもとに実施されたのでしょうか。本記事では原口兼明氏の著書『医療崩壊前夜』(幻冬舎メディアコンサルティング)より一部抜粋・再編集し、当時の社会的状況を詳しくみるだけでなく具体的にどのような対策が取られたのか解説します。

国民から絶賛された「老人医療費の無料化」が崩壊

1973年から始まった老人医療費の無料化は国民に喝采をもって迎えられましたが、のちに「日本の医療政策最大の失敗」といわれるようになります。まず懸念されたのが、国民医療費の爆発的な伸びです。【図表1】は、人口10万人あたりの年齢階級別受療率(受診率)を1970年と1975年で比較したグラフです。

 

【図表1】人口10万人あたり年齢階級別受療率(1970年、1975年)
【図表1】人口10万人あたり年齢階級別受療率(1970年、1975年) 【出典】厚生労働省「平成19年版厚生労働白書」

 

これを見ると、この5年間で70歳以上の受診率が約1.8倍も増加しています。70歳以上の高齢者は、病院やクリニックに何度かかっても「タダ(無料)」になったため、必要以上に受診する人が増えたからです。大した病気でなくても受診する高齢者が増えたため「病院の待合室はサロン化した老人クラブ」とよく話題になりました。

 

たとえ大した病気でなくても、患者が医療機関を受診すれば国民医療費が発生し、国や自治体の税金が使われることになります。特に高齢者の加入者が多い国民健康保険の財政状況は急激に悪化しました。

 

老人医療費の無料化を決めた1972年は日本経済もまだ順調に成長していましたが、1973年にはオイルショックが起き、日本の高度経済成長も終わりを告げます。ちょうどそのタイミングで膨れ上がるようになった老人医療費は、その後の国と自治体の財政を圧迫し続けることになります。

 

また、老人医療費の無料化は高齢者の「社会的入院」を増大させることになり、わが国の介護事業の円滑な伸展を妨げる結果にもなりました。

 

8/23(土)THE GOLD ONLINE フェス2025 SUMMER 連動企画
「THE GOLD ONLINE 川柳コンテスト」作品募集!

※募集期間:6月1日~8月13日

次ページ介護施設代わりの「社会的入院」

本連載は、原口兼明氏の著書、『医療崩壊前夜』(幻冬舎メディアコンサルティング)から一部を抜粋・再編集したものです。

医療崩壊前夜

医療崩壊前夜

原口 兼明

幻冬舎メディアコンサルティング

崩壊寸前、日本医療の現実 ベテラン医師が切り込む!医療費削減政策の問題点とは? 日本の医療崩壊を防ぐために、いまなにをすべきか? 1961年に導入された国民皆保険制度によって、すべての国民は必要な時に必要な医療…

人気記事ランキング

  • デイリー
  • 週間
  • 月間

メルマガ会員登録者の
ご案内

メルマガ会員限定記事をお読みいただける他、新着記事の一覧をメールで配信。カメハメハ倶楽部主催の各種セミナー案内等、知的武装をし、行動するための情報を厳選してお届けします。

メルマガ登録