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使い果たされた現金と、残された“実家”
相続人たちが確認すると、相続人の1人である叔父が相続税を納税していなかったことが判明。
「すまん、もうカネがないんだ」
彼が受け取った相続財産は、相続税の数千万円を支払うには充分なものだったはずだが、すでに手元になかった。なにに使ったかは不明だが、短期間で溶けていた。このままでは、ほかの相続人の口座や資産が差し押さえられる恐れもある。焦りが広がるなか、一筋の光が見えた。
それが──実家の共有名義だった。
共有ゆえに残された選択肢、そして最大の壁
実家は、6人全員で共有名義として相続していた。思い出が詰まった場所であったため、残していきたいみんなの意向を反映したはずだった。
通常、不動産は「共有にしないほうがいい」といわれる。これは、相続対策や相続後の不動産についても、また夫婦で住宅を購入する際にもいわれることだ。なぜなら、売却時に共有者全員の同意が必要だからである。だが今回ばかりは、共有だったことが唯一の納税資金の回収手段となった。
叔父にすべての財産を金融資産で相続させていたら、それまでもを使い果たしていたはずだ。しかし、叔父の名義が残っている不動産があることで、売却代金から納税することが可能なのだ。
早速、不動産会社を通じて入札形式の売却手続きを進めた。納税までの時間が限られていたため、スピードと確実性を優先した対応だった。だが、ここで再び壁が立ちはだかる──。
「この値段じゃ安すぎる。もっと高く売れるはずだ」
そういって、叔父が売却になかなか同意しなかったのだ。
「持ち分だけ売る」最後の説得と、ようやく見えた終着点
相続人の一人が、ついにいい放つ。
「私は私の持ち分だけでも売却するわよ」
「そうすれば、あなたも持ち分でしか売れなくなるから、あなたの取り分は二束三文よ」
不動産は、共有者全員の合意がなくても、各自の持ち分だけでの売却は可能だ。だがそれは、市場価値の4分の1以下に落ちるリスクを伴う。叔父もそれを理解していた。
「……わかったよ、もういい」
こうして、ようやく売却が実現し、その代金から未納の相続税が完納された。
