(※画像はイメージです/PIXTA)

千葉県我孫子市の築30年の一軒家。鍵を開け、足を踏み入れた瞬間、新人不動産業者の全身は凍り付いた。残された生活の痕跡、そして階段で感じた異様な気配。後になって知らされたのは、この家で起こった悲しい出来事――自殺だった。時代の波に翻弄された家主の記憶が色濃く残る、事故物件での忘れられない筆者の実体験。

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不動産業者としての“最初の現場”

不動産業界に足を踏み入れたのは、もう20年以上も前のことだ。最初に勤めたのは、債務整理に伴う任意売却を専門に扱う不動産会社だった。任意売却とは、住宅ローンの返済が困難になったとき、金融機関の同意を得て任意で物件売却することで、競売よりも好条件で解決することを目指す方法である。

 

入社して3ヵ月ほど経ったころ、先輩に同行して、とある物件を訪れることになった。場所は千葉県の我孫子市。倒産案件とのことだった。

 

※会社や個人の破産時に、破産手続きのなかで管理・処分される不動産を指す。

 

「今回の物件は、社長が持ってきた案件で、我孫子市の戸建。倒産が絡んでいるらしい。詳細はまだ聞いてないけれど、帰ったら確認するよ。柏インター下りたらナビしてくれ」

 

当時はいまのようにスマートフォンもなく、社用車にナビも搭載されていなかった。助手席の私は、紙の地図帳を見ながら「次の信号を右です」「その次を左」と張り切って声をかけた。初めて任された任務のような感覚で、少し高揚していたことを覚えている。

 

やがて先輩が口を開いた。「今回は図面がないから、間取りを手書きしてくれ。建築はだいたい“間(けん)”単位で設計されていて、1間は1.8メートルくらい。お前の両手を広げた長さがちょうど1間になるから、それを目安に書けばいい。方眼紙に0.5間単位で頼むな」そう教わって、「へぇー」と驚きながらも、まだ見ぬ現場に期待と緊張を抱きつつ、現地に到着した。

初めての“異常”…自殺と向き合う瞬間

その家は、50坪以上の敷地を有し、ゆとりのある駐車スペースがある築30年ほどの木造二階建て住宅だった。外観からは、特別な違和感は感じられなかった。

 

鍵を開けて中に入った先輩に続き、私も慌てて玄関をくぐった。室内に一歩足を踏み入れた瞬間、唖然とした。生活の痕跡が、そのまま残っていた。ソファーには脱ぎ捨てられたままの衣服、片方だけ裏返った靴下。体温すら残っていそうな気がして、思わず息を飲んだ。

 

「結構動産あるな」「これ、処分費けっこうかかるな。40万は超えるかもな」先輩はそう言いながら、淡々と奥の部屋へ消えていった。私はといえば、ただぼんやりと立ちすくんでいた。

 

それでも仕事は待ってくれない。奥から大きめの声で、「最初だから、見たまんまでいい。どんどん間取りを書いてくれ」と声をかけられ、現実に引き戻されるようにシャーペンを走らせた。

 

1階の玄関、和室、洗面所、風呂、台所……と順調に描いていった。両手を広げて、窓枠の大きさと自分の広げた両手の長さがほぼ同じであること、扉がその半分であることに感動したことを覚えている。

 

しかし、1階の奥の和室で寸法が合わなくなった。何度測り直してもズレる。原因がわからなかった。いまから思うと、これは私をそのまま1階に留めておきたい、いまはいない元家主の意向が働いていたのかもしれない。そう思うくらいあれは奇異な経験だった。私は、それでもこの部屋をいったん後回しにして、2階へ向かおうとした瞬間──階段に足をかけたとき、鳥肌が立った。

 

「仕事だから」と自分に言い聞かせ、一歩ずつ足を運ぶ。急な階段を上がり切ると、正面に洗面台があり、その鏡に自分の顔が映った。そして、まるでタイミングを合わせたかのように──蛇口から、水が、ポタリ、ポタリ、ポタリと3滴落ちた。

 

水道は元栓から止まっているはずだった。

 

筆者は全身が硬直し、瞬間的に、ギャーと叫びながら階段を駆け下り、玄関から外へ飛び出した。呼吸が乱れ、過呼吸のような状態になりながら、ただ家を見上げていた。10分後、先輩が出てきて「間取り書けたか?」と訊いてきた。

 

「書けるわけないですよ。この家、絶対になにかありますよ」

 

自分でもドラマみたいなセリフだと思った。でも、あのときの感覚は決して気のせいではなかった。会社に戻り、社長に「なにかありましたよね?」と尋ねると、「2階で自殺していたって言ってなかったっけ?」と軽く返された。

 

聞いた瞬間、背筋が凍った。私が鳥肌を感じたその階で、人が命を絶っていたのだ。社長のトーンは、我々の仕事では日常的にそういった物件が存在することを語っていた。

 

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