(※写真はイメージです/PIXTA)

多くの人は、人生の少なくない時間を仕事に費やしているが、必ずしもやりがいを感じているとは限らない。とくにサラリーマンの場合は、仕事内容以上に、組織内での評価や立場が意気込みに大きく影響する。定年後は自由に、自分のやりたいことをしたい――。しかし、それが思い通りにいくとは限らないのだ。実情を見ていく。

結婚記念日、妻に打ち明けた胸のうち

3月末の桜の盛りのころに、鈴木さん夫婦の結婚記念日はある。鈴木さんは妻の真理さんに定年後の2人の人生展望を語るべく、おしゃれなフレンチの個室を予約。普段より少しドレスアップし、テーブルに向き合った。

 

ワインもいい感じに回り、そろそろデザートというタイミングで、鈴木さんは真理さんに本題を切り出した。

 

「いまの会社は、60歳で退職しようと思う」

 

「えっ、どうして…!?」

 

真理さんは驚きを隠さなかった。

 

鈴木さんは、会社からの評価に納得いかないこと、契約社員として残っても給料が半減すること、地元の静岡で声をかけてくれる同級生がいること…などを話した。

 

「あの家を売って、一緒に地元に帰ろう? 郷里の友人の会社で働く。これまで、納得のいかない環境で我慢してきたのだから…。サラリーマン人生最後のご褒美だ」

 

「これからは夫婦2人、緑豊かな場所でのんびりゆったり暮らそうじゃないか」

 

真理さんは何度か言葉を挟みかけたが、そのうち黙って深くうなずくだけとなった。

 

妻に本音を打ち明けた鈴木さんはすっきりと晴れやかな気持ちとなり、帰りのタクシーのなかでは、料理とワインの余韻に浸っていた。

朝起きると、妻の姿が消えていて…

翌日の日曜日、鈴木さんが起きると、真理さんの姿が消えていた。

 

「あれ…買い物かな?」

 

  〈 おーい、どこに行った?? 〉

 

しかし、昼近くになっても戻らない。鈴木さんはラインを入れたが、返事がない。

 

畳みかけてラインを送った。

 

  〈 昼ごはん、どうするんだ!? 〉

 

30分後、返信があった。

 

  〈 早紀(娘・仮名)のところにいます。私、しばらく帰りません 〉

 

慌てた鈴木さんは真理さんと早紀さんのケータイにかわるがわる電話したが、いずれもつながらない。以降のラインには既読もつかなくなった。

 

翌日、真理さんから超長文のラインが届いた。まとめると、以下のような内容だった。

 

●定年後にあなたの地元に帰るなんて想定外。私はひとりも知り合いがいない

●車の免許もないし、身動きが取れなくなってしまう

●いまの会社で契約社員になるより、転職先の給料のほうがずっと少ないなんて意味がわからない

●出世しなかったのは自分のせいでは? 会社員が転勤を拒否したら当然では?

●あなたひとりでガマンしたようなことをいうが、私だってずっとガマンしてきた

●あなたと義母にきつくいわれて泣く泣く会社を辞めたのに、あとから「だれに食べさせてもらっているのか」なんていわれて許せなかった

●向こうに行ったら、あなたの両親だけでなく、独身のお兄さんの面倒も見ることになる

●とにかく私はイヤ

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