中学受験で生成AIを使う前に知っておきたいこと
では、年々激化する中学受験においても、生成AIは効果的なツールとして活用できるのでしょうか。
「東大卒のプロ家庭教師」として2,500以上の家庭を指導してきた長谷川智也さん(写真2)は、「保護者の方が、子どものわからない問題をサポートをする際、解説が少ない塾の教材の基礎問題や標準問題レベルであれば生成AIで対応できるでしょう」といいます。
ただし、生成AIの回答が間違っている場合もあるため、それを見抜く力が保護者側に求められるということも指摘しています。
「一方で、難関校レベルの問題はまだ解けないと思います。特に、図などを使った複雑な解説が必要な問題や、インターネット上に十分な学習データが蓄積されていない可能性のある内容については、理解が難しい場合があります」
つまり現在の生成AIは、中学受験の基礎から標準、応用の一部までの「パターン化できる問題」には対応できるものの、難関校で求められる「初見で考える力」や「読解力」を必要とする問題にはまだ対応しきれないと、長谷川さんは説明します。
また、子どもが今後一人で生成AIを活用していく際、「子どもの基礎学力、特に語彙力や日本語力といった言語で考える力が必要でしょう」と、長谷川さんは強調しています。
土台となる語彙力や基礎学力がない状態で生成AIを使っても、その効果は薄い可能性があるというのです。
同時に長谷川さんは、「土台ができていれば効率化はできますが、ズバ抜けた天才は出にくくなるかもしれません」と、AIによる「平均化」のリスクも懸念しています。読書感想文など、自由な発想が求められるものについても、AIに頼ると発想が平均化されてしまうリスクをあげています。
考える力を育むには生成AIとの適切な距離感が大切
長谷川さんは、保護者の今後のスタンスとして、「もはや生成AIを使わせないという選択肢はない。どううまく使うかを考える必要がある」と話しています。
「今やスマートフォンと同様に、生成AIを使うという流れは止められないでしょう。ただし、生成AIは基本的に自分を怒らせるようなことはいいません。また、人間と違って根気強く対応してくれるため、コミュニケーションという点では気を付けなければいけません」
もう一点、生成AIだけでなく、スマートフォンやゲーム機器など、長時間画面に向かっていることの弊害を長谷川さんは指摘しています。「画面のなかだけで交流していることで身体感覚が薄れてきたり、他人の気持ちに意識が向かなくなったりする子どもが増えている傾向がある」という現状から、「実際にメンタル面に支障が出て不登校になることもあります。成績が落ちることよりも深刻な問題です」と長谷川さんは話し、バランスを見てデジタルを活用していく必要性を伝えました。
また、他者の気持ちを意識するという点については、「中学受験の入試問題には、必ず作問者や学校としての思いが込められている」ことを挙げました。
「大学受験も、今後この方向に進んでいくと予測されますので、『この問題では何を問いたいのか』をキャッチできる力、いわば“思いやり”はさらに大切になってくるでしょう」

