(※写真はイメージです/PIXTA)

病院の人材不足を補うには、採用を増やすのみではなく定着させる必要があります。本記事では、社会医療法人ピエタ会 石狩病院 理事長の盛牧生氏が、新人教育の一環として取り入れ、成果を挙げている2つの成功事例を公開。盛氏の著書『「人が辞めない」病院をつくる スゴイ人事考課制度』(幻冬舎メディアコンサルティング)より一部を抜粋・再編集し、詳しく解説します。

新卒看護師のキャリア形成とスキルアップ

新卒看護師のモチベーションを維持するため、私たちは2023年から「ローテーション研修」を導入しました。新卒者はまず入職後2年間、同じ部署で働きますが、3年目からは人事異動の一環として別の部署に異動します。

 

現在、看護部には病棟が2つ、外来、そして透析室の4つの部署があり、新卒者はそのうちのいずれかに半年から1年程度配属され、期限が来れば次の部署に異動するという形で研修を進めていきます。このローテーション研修の目的は大きく3つあります。

 

1つ目は、新卒看護師にさまざまな部署を経験させることで、自分のキャリア形成や将来の進路を考える機会を与えることです。

 

私たちの病院は、大学病院や総合病院と比べると診療科や業務内容に限界がありますが、できるだけ多くの経験を積んでスキルアップをしてほしいと考えています。そのため、研修を通じて、どの分野に興味を持ち、どのようなキャリアを目指すかをじっくり考える時間を提供したいのです。

 

2つ目は、若いうちから患者視点に基づく「継続看護」を学んでもらうことです。各部署にはそれぞれ異なる技術や考え方が存在し、新しい知識やスキルを身につける機会を提供します。また、外来や病棟、透析室といった異なる部署でも、患者に対して一貫した看護を経験することが大切です。

 

たとえば、患者が病棟から外来に移動しても、看護の質や対応が変わらないようにするためには、看護師自身が複数の部署を知り、院内全体の看護基準を理解する必要があります。こうした経験は、患者からの安心と信頼を得るうえで重要です。

 

3つ目は、社会人としての適応力やストレス耐性を養うことです。異動を経験することで、環境の変化に対応する力や困難に直面したときの回復力を身につけてもらいたいと考えています。

 

看護師という職業は、変化に対応できる力が求められるため、早い段階でこれらの能力を育てることが大切です。同じ部署に長くとどまることで、異動への不安や抵抗感が強まることがありますが、異動を繰り返すことで、自然とその不安を乗り越える力がつくはずです。

 

また、ローテーション研修は5年間のスケジュールで進められるため、その間に新卒者が病院を離れる可能性も低くなります。私たちの病院の風土に慣れ、満足できる働き方を提供できれば、定着率も高まります。

 

ただし、この研修制度を進めるなかで、いくつかの課題も見えてきました。たとえば、新しい部署に適応できず、モチベーションが下がってしまうケースがありました。その場合、話し合いを重ね、元の部署に戻るという柔軟な対応を取ることもあります。また、1年という短い期間では、技術や知識を十分に習得できないまま次の部署に移らなければならないことも課題です。

 

教える側としても、まだ発展途上の看護師を次の部署に送り出すことに不安を感じることがあります。こうした点については、今後さらに改善し、より効果的な研修制度を構築していきたいと考えています。

 

さらに、私たちの病院では人事考課制度が導入されています。しかし、日本看護協会が提唱する「クリニカルラダーシステム」という、看護師の実践能力を段階的に評価・育成するシステムも広く利用されています。この2つの評価基準が同じ病院内で共存することは効率的ではないため、私たちは3年間かけてこれらを連携させる方法を模索してきました。

 

最終的には無理にリンクさせるのではなく、クリニカルラダーシステムを教育の一環として取り入れる方針に転換しました。評価は私たちの病院独自の人事考課を用い、教育にはクリニカルラダーの概念を活用する形です。この整理により、当面はこの方法で運用し、さらに関連性のある部分があれば、今後の改善に活かしていきたいと考えています。
 

 

盛 牧生

 

社会医療法人ピエタ会 石狩病院 

理事長

 

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※本連載は、盛牧生氏の著書『「人が辞めない」病院をつくる スゴイ人事考課制度』(幻冬舎メディアコンサルティング)より一部を抜粋・編集したものです。

「人が辞めない」病院をつくる スゴイ人事考課制度

「人が辞めない」病院をつくる スゴイ人事考課制度

盛 牧生

幻冬舎メディアコンサルティング

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