定着率向上に寄与する教育制度
私の病院が新人教育の一環として取り入れ、成果を挙げている事例を2つ挙げます。
1つ目は3ヵ月ごとに行う「振り返り研修」です。ほかの病院でも採用している研修で、対象となる新卒者と直接指導にあたる先輩看護師のペアと教育委員会の関係者が集まって自由に話をするものです。新卒者につく先輩看護師は、気兼ねなくなんでも話せるお姉さん的な存在で、チューターと呼ばれます。
この集まりでは、業務を通じて最近感じたことや体験したこと、困ったことなどを忌憚なく話し合います。研修には新卒者の同期も顔をそろえるので、同じ立場の仲間がいまどんなことをしてどんなことに悩んでいるのかといったことをつぶさに知ることができます。
また話の様子から同期が看護師として自分よりも進んでいるのか、遅れているのか、同じくらいなのかをつかむ機会にもなります。
同期が自分と同じようなことで困っていたり、似たような悩みを抱えていたりすれば、それを共有して複数の先輩看護師からアドバイスを受けることができます。その過程で励まされたり、背中を押してもらったりすることもあります。
ベテランの看護師であってもときに悩んだり、行き詰まったりすることがあるのですから、経験の浅い新卒者の心はいとも簡単に折れてしまいます。そういうときに新卒者の心を支えるメンタルヘルスの機会としても振り返り研修は有用です。
事例の2つ目は入職後1年経ったときに行う「まとめ研修」です。私の病院では入職後9ヵ月をメドに新卒者に担当患者を受け持たせます。新卒者は、担当患者に対する看護過程のレポートを書きます。看護目標に基づいて計画を立て、実施内容を記録するのです。一般のビジネスにおけるPDCAサイクルの看護版です。
まとめ研修では、新人看護師が1年間の経験を通じて得た看護観や自意識、必要なマインドを発表します。ほかの病院でも同様のことが行われていると思いますが、私の病院では研修に付加価値を持たせるため、指導者への感謝企画を設けています。具体的には、新人がそれぞれの先輩看護師に1年間の感謝の手紙を書いて手渡すのです。
新卒者と先輩看護師は年間で20種類以上のさまざまな研修をともにします。そのたびに教育委員が撮影してきた膨大な写真を編集してスライドショーに仕立て、みんなで鑑賞します。入職当時の初々しい様子や少し慣れてきたころの光景、終盤期の真剣な表情など、当事者にとってはそのときどきの思い出が詰まった画像が次々に映し出されます。
圧巻なのは、あたかも映画の本編終了後に流れるエンドロールを思わせるような名前の紹介です。まず、その年の新卒者の名前が大写しになり、続いて指導者の名前が流れ最後に教育委員の名前で締めくくられます。思い出の写真で高まった感動は最高潮に達し感極まる看護師が続出するのも恒例です。
こうした形で振り返ることで、新卒者の多くは自分たちがいかに大切にしてもらっているかを実感します。指導者たちにとっても、自分たちが新卒者を育て上げてきたことを実感する場になります。
毎年のつながりが次の年の新卒者を育成する新たなモチベーションとなって、指導者の気持ちの統一感を保っているようにも思います。
看護部が教育において重視しているのは、単なる短期的な学びではなく定着率の向上を目指した長期的な視点です。そのためには、指導者が優しく丁寧に教える姿勢が非常に重要だと考えています。主に新卒看護師にとってはこうしたサポートが病院で長く働き続けるモチベーションにつながります。
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