人事考課制度で育む組織の風土づくり
人事考課はなにを目的として取り組むかによって導かれる結末が変わります。少なくとも、私たちの人事考課では、丹念な面接をして職員がなにを考えているかを聞き出すことに重点をおきました。そのうえで、役職者は病院として求めていることをきちんと伝えるように努めました。このやり方で評価をしようとしたのです。
まず、職員の考えを聞くことから始めたので当初は処遇には結び付ける発想はありません。それが私の病院における人事考課制度の原点です。
私の病院では役職者と職員がいろいろな場面で話をする風土が根付いています。ですから、形式的には面接という段取りで進めますが、役職者と職員が面と向かうことにはさほど抵抗感がなかったように思います。
その点、私が聞き及んでいるほかの多くの病院の人事考課制度は最初から評価を目的としています。ほとんどの役職者が1人ひとりの職員に対して、Aだ、Bだと評価することを主眼にしていると思います。
評価される職員にとっては「あなたはA、彼女はB」といわれても、なぜそうなるのかを知らされることはありません。評価が給与や賞与と連動していないケースも多いはずです。評価される側にとっては一連の仕組みや流れがよくわからないため、制度に対して消化不良気味の職員も多いはずです。
実際にほかの病院から来た人たちのなかで、前職時代に自分の給料が決まる仕組みや賞与の増減のシステムをまったく知らされていなかったという職員は少なくありません。
その点、私たちは評価基準を公開して、職員ができるだけ納得できるようにしているため、本人が納得するかどうかは別にして、制度そのものはわかりやすいという声をよく聞きます。もともと私の病院では、職員の指導や教育、育成を目的として人事考課を取り入れたという点が、結果的にほかの病院との違いとして表れているのだと思います。
役職者と職員が積極的に話し合う風土があるためか、目標に向かって進むべきベクトルが示されると、それを「わがこと」として成し遂げようとする職員が多いのも私の病院の特色の1つであると思います。
私の病院では2023年度から、訪問診療や訪問看護の推進を病院の方針として院内外に打ち出しています。2023年の暮れからは「みなし訪問看護」として、その時点ではまだ訪問看護ステーションは設けていないけれども、病院の看護師が患者宅に出向いて実質的な訪問看護を始めました。すると、まさに「訪問看護の充実」を自主目標として掲げる看護師が現れます。
つまり、病院の進める施策を自らの目標とすることで頑張りたいという姿勢を見せてくれるのです。うまくいけば評価につながるし、実際、最近の会議で評価された看護師も何人かいます。
このように、病院が取り組んでいる、あるいは取り組もうとしていることと、自分の目標をうまくベクトル合わせして進んでいけるのは私たちの人事考課制度のやりやすさになっていると思っています。言葉を換えれば、私の病院の病院目標はわがことにしやすいといえるのです。
人事考課制度は一見すると複雑に感じるようですが、実際にはそれほど難しいものではないとも思います。要は直接的に携わる事務方の心意気に負う部分が少なからずあると考えています。
一般的に、病院という組織における事務方の権限は極めて弱いものです。簡単にいえば事務長と医師が対面するとき頭数は1対1ですが、権限を含む力関係では何倍もの差になります。
おそらく多くのほかの病院では、ベテランの事務長よりも若い医師のほうが優位であると思います。10人も20人もいる医師に対して、事務長は1人ですから、はじめから勝負がついているようなものです。
その点、私の病院では前理事長の計らいで私にかなりの権限を委ねてくれたので、事務長といえども臆せず、ひるまず、医師と渡り合うことができました。もちろん、意味もなく医師と争うつもりはありませんが、病院全体の経営の視点で、いうべきことはいい、主張すべきことは主張するというスタンスを貫いてきました。
ほかの病院に比べるとレアケースですが、これくらいの気持ちで臨まないと、人事考課制度の本当の効果は導けないのではないかと思っています。
全国の多くの院長兼務型の理事長がそういう視点で人事考課に興味を持ち、運用に本腰を入れて取り組むことができれば、事務職のモチベーションは確実に上がるはずです。
盛 牧生
社会医療法人ピエタ会 石狩病院
理事長
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