形式的になりやすい人事考課制度
「また面倒な評価の時期が来た……」
これは、ある大規模病院の診療部門長がため息をつきながらつぶやいた言葉です。この一言には、人事考課という仕組みが抱える本質的な課題が凝縮されています。
本来、人事考課は組織にとって欠かせないものです。職員の強みを活かし、課題を明らかにすることで、個人の成長と組織の成長を促すものであり、適切な処遇を通じて職員の意欲を高める仕組みでもあります。
ところが、この制度が現実には「義務的な作業」として扱われ、本来の目的を見失っている病院も少なくありません。医療現場は、24時間365日、患者の命と向き合う緊張感のなかで、常に予測不能な事態への対応を求められます。
管理職も現場で診療、看護といった日々の患者ケアや緊急対応に追われながら、管理業務である人事考課に十分な時間と集中力を確保することは困難です。
評価の内容が単なる作業的なものにとどまってしまうと、職員1人ひとりの成長や課題を深く掘り下げる機会は失われてしまいます。これでは、せっかくの評価面談もお決まりの儀式で終わってしまいます。
「どうせ結果は決まっている」「頑張っても報われない」といった不満が広がれば、職員のモチベーションは下がるばかりで、病院全体の雰囲気にも悪影響を及ぼしかねません。
本来人事考課とは、職員と管理職が目標や期待する成果を共有し、日々の業務を振り返りながら相互理解を深める絶好の機会になるはずです。けれども、評価が形式的なものになってしまえば、信頼関係の構築はおろか、不信感を助長してしまいます。
これでは、評価がもたらすポジティブな効果は期待できません。私自身、最初は人事考課制度が組織によい影響を及ぼすとはそれほど思っていませんでした。
しかし、せっかくなら形だけのものではなく全職員にとって公正な評価制度をつくろうと、地道に試行錯誤を繰り返しました。
導入後も制度の改善を重ね、院内に定着させていった結果、導入から10年以上経ちましたが新卒採用者数が増加、さらに2018〜2024年まで新入職員の5年以内の離職者を0人にすることに成功しました。2023年に理事長に就任してからも、この制度を絶え間なく改善しています。
人事考課制度を適切に運用していくためには、いくつかポイントがあると考えています。例えば、人事考課制度が必要な理由を理解してもらう、評価者を育成するなど、どれも難しいことではありません。それぞれの病院に合った制度をつくり、効果的に運用していくことは可能です。
それらを実践せずに形骸化した人事考課制度を放置していれば、職員のモチベーションが低下し、人材不足や医療サービスの質低下といった問題につながり、最終的には病院経営にも影響を及ぼします。
人事考課制度とは、単なる人事評価制度ではありません。医療現場の課題解決と組織の成長を支える原動力となりうるものです。だからこそ、適切に運用しなければ、病院の未来は失われてしまうのです。
盛 牧生
社会医療法人ピエタ会 石狩病院
理事長
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