まずは「耐震診断」でマンションの現状を把握
前回の続きである。
(3)第3段階―耐震診断の実施
その後も情報収集を重ね、2010年1月の長期修繕委員会において、建物の耐震診断を受ける方針を出すか否かについて検討が行われた。その当時管理組合では、万一震災にあった場合、避難所暮らしをしないですむことと、最低限生命を守ることを目的に取組みを進めるという方向性が打ち出されていた。
地震後、雨風をしのげて危険性がないのであれば、24時間周りを気にしなければいけない避難所よりも我が家が一番である。また、建物が倒壊しなければ、人が亡くなったり怪我をしたりすることも減る。この2つのことを重視して、まずは自分たちのマンションの現状を知ったうえで、耐震補強工事を行うという考え方で検討が進められた。
2010年6月に耐震診断費用の助成について相談するため市役所を訪問し、7月に耐震診断の内容と費用について協議を行った。続いて9月に耐震診断のための現地調査を始めた。まず、竣工図をもとにトレースした図面や新たに作成した図面から柱や梁、壁や開口部の位置、大きさなどを確認し、現状と竣工図面の整合を行った。コア抜きしたコンクリートの強度、中性化の進行程度、建物のひずみやひび割れ等を考慮して計算をすすめ、2011年2月に耐震診断が完了した。
(4)第4段階―耐震補強工事に向けて
2011年3月、耐震診断報告会で診断結果の報告が行われた。長期修繕委員会は診断結果を受けて、「耐震診断は地震による被害を最小限にくいとめるために、現状を知る目的で行うものである」という当初からの考えに基づき、すぐさま耐震補強箇所の検討を始めた。
もともと診断前から、避難経路の確保と一番地震に弱いと思われるところの補強を最優先し、順次、段階的に補強していくという方針があったことと、折しも東日本大震災が発生したこともあって、耐震補強工事の実施箇所の決定にあまり時間を要することはなかった。2011年4月、緊急対応耐震補強工事の実施が総会で提案され、承認が得られた。
唯一の縦の避難経路、「らせん階段」の補強の重要性
(5)補強箇所の検討
その後、緊急対応耐震補強工事の設計が2011年6月から始められ、住民に向けての工事内容説明会が9月にもたれた。
具体的な工事箇所としては、大きな地震が起きた場合に現状では倒れる恐れがある各棟のらせん階段と、外れて落下する可能性が大きい渡り廊下がまず挙げられる。特にエレベーター塔の倒壊が懸念される棟ではこれらが重なると避難通路を全く失うことになってしまう。また、地震が起きた場合エレベーターは停止し、停電すると復旧に時間がかかるため、唯一の縦の避難経路となるらせん階段の補強は重要だった(写真)。
【写真】補強前のらせん階段
全体の中で構造耐力的に一番弱いと目されるところは、1階がピロティになっている集会室と店舗3区画(界壁コンクリートブロック積み)と高置水槽のある塔屋である。必ずしも壊れてしまう訳ではないが、崩壊の可能性が大きいため、これらの箇所の補強を行うことになった。
居住者の中には、全面的な改修でなければ大金を支出する意味がないのではないかという意見もあったが、部分補強を行うことで助かる命が一つでも増えるのであれば、実施する意味は充分あるとの長期修繕委員会の見解があり、これには説得力があった。
次回は、耐震診断の結果を見ていく。