今回は、マンションの耐震診断から判明した「改善点」等を見ていきます。※本連載は、一級建築士で、大阪市立大学名誉教授、NPO法人集合住宅維持管理機構理事長の梶浦恒男氏の編著書、『大規模改修による マンションのグレードアップ事例集』(彰国社)の中から一部を抜粋し、マンション管理組合が取り組んだ耐震改修について、具体的な事例をもとに説明していきます。

診断の結果、判明した耐震改修の必要性

前回の続きである。

 

2.耐震診断

(1)耐震診断の流れ

耐震診断は以下のような日程で進められた。

 

2012年8月 耐震診断補助金について市への相談

2012年9月 耐震診断着手

2013年1月 耐震診断完了

2013年2月 市への補助金申請

2013年3月 耐震診断報告会

 

(2)耐震診断の結果

耐震診断はエキスパンション・ジョイントで接続された2つの棟について実施された。作業は、現地の目視調査、不同沈下の測定、コンクリート強度測定を行い、それらの結果に基づいて診断が進められた。

 

コンクリート強度の測定は、建物の各階から試験体を採取し、公的機関による圧縮強度試験を実施した。測定結果のほとんどは設計強度を上回り、良好であることが確認できたが、耐震診断の結果は2棟とも、構造体耐力上主要な部分の地震に対する安全性は「地震の震動および衝撃に対して倒壊し、又は崩壊する危険性が高い」と判定され、具体的には以下に示すような①から③の内容の耐震改修が必要となった。

 

また、工事に必要な概算費用を検討した結果、すべての工事を実施した場合、管理組合の当初予算を大幅に超えることも判明した。

 

①建物各階けた行き方向

建物各階のけた行き方向は、バルコニーや廊下であり開口部が多く壁が少ないために、地震の揺れに対して必要な強度が不足している。そのため、ブレース等の設置により強度を高める補強と、柱と壁の境目に耐震スリットを設け極ぜい性柱の改善をすること。

 

②建物1階柱の補強

建物1階駐車場や集会室の独立した柱は圧縮力とせん断力に対する改善が必要であり、柱の鉄板巻き、柱断面の鉄筋コンクリート増し打ちなどの補強をすること(写真1)。

 

③屋外階段の補強

建物の東端、西端にある鉄筋コンクリート造の屋外階段は、建物本体から1m程度離れており、各階で床のみが住棟の廊下床に接合された構造になっている。地震時の水平力に対して接合部が破壊される恐れがあるため、鉄骨フレームを建物本体側から屋外階段に持ち出して支持すること(写真2)。

 

④エキスパンション・ジョイントの性能

2つの棟を接続しているエキスパンション・ジョイント部については、建物の揺れに対して必要な間隔が確保されておらず、間隔を広げる必要があるが、技術的に改善の手立てがないことが確認された。

 

【写真1】補強が必要な駐車場の独立性

 

写真1 補強が必要な駐車場の独立性

 

【写真2】補強が必要な屋外階段

写真2 補強が必要な屋外階段

居住者の関心の高さがうかがえた「耐震診断報告会」

(3)耐震診断報告会

耐震診断報告会は多くの居住者が参加するなかで開催された。耐震診断をした設計者から耐震改修が必要な範囲、工法等が説明され、工事の優先順位や予算についての報告がなされた。

 

参加者からは「1階駐車場の補強だけでもやってほしい」、「柱の補強工事をした場合、今までどおり駐車場は使用できるのか」、「バルコニー回りを補強する場合、工事中生活できるのか」など様々な質問や意見が交わされ、耐震改修工事への関心の高さがうかがえた。

本連載は、2016年3月10日刊行の書籍『大規模改修による マンションのグレードアップ事例集』から抜粋したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

大規模改修によるマンションの グレードアップ事例集

大規模改修によるマンションの グレードアップ事例集

梶浦 恒男、NPO法人集合住宅維持管理機構

彰国社

通称マンションドクターと呼ばれ30余年間に3000件超の業務を管理組合から依頼された実績をもつ編者が、改修工事によってグレードアップした多くの事例の中から72事例を分類整理して丁寧な解説を加え、居住者および管理組合の対…

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