工事範囲、工事費用の予測が難しい耐震改修
前回の続きである。
4.工事の準備を振り返って
このマンションの場合は運良く公的融資を受けることが可能となり、耐震改修工事が実現することができたが、多くのマンション管理組合が耐震改修工事の必要性を少しは感じながらも、具体的な動きになりにくいのはどのような問題があるのだろうか。工事の準備や関心はあるがなかなか具体的な動きに至らないマンションの事例などからこの点を考えてみたい。
(1)工事範囲や工事費の予測の難しさ
耐震改修工事は、初期の検討段階で工事範囲や工事費などを予測することが難しい。通常の大規模修繕工事の準備をする場合は、管理組合の長期修繕計画や専門家のアドバイスにより、比較的簡単におおよその工事の検討範囲や工事予算を知ることができ、管理組合内の初期の合意形成も図りやすく、具体的な工事の準備に踏み切りやすい。
ところが、耐震改修工事の場合は、耐震診断をしない限り具体的にそのマンションに必要な工事の範囲や工事費を知ることができないことや、実際に耐震改修工事をするためには、工事の支障となる部分の撤去復旧工事や設備の移設工事も必要で、その費用も負担が大きく、設計段階で、補強工事の工法の検討と平行して、入念な現場調査や設計を行わない限り、工事全体の範囲や総予算が明らかにはならないことがある。そのためには耐震診断をすることが管理組合にとって先行する課題となり、その段階では専門家からもその後の展開について十分に説明しきれないことがあり、これらが耐震改修への具体的な動きにならない要因としてあるのではないかと思われる。
低金利で手続きが簡単な融資制度が求められている
(2)工事に伴う建物の使用への影響
耐震改修工事をすると「工事中は住むことができないのではないか」、「工事後も今までどおり建物が使用できるのか」というような工事についての不安がよく聞かれる。耐震改修工事の漠然とした悪いイメージだけで、「こんな工事はとても私たちの管理組合では無理」と結論づけてしまうことがあるようだ。
当マンションでも当初、駐車場を耐震改修すれば「壁や筋かいが入り、使用できなくなるのではないか」、「廊下の壁と柱に耐震スリットなど設ければ、住戸内からの工事が発生し、工事中は住むことができないのではないか」など否定的な意見もあったが、最近は耐震スリットを設ける工事も室内からではなく外壁側からだけで施工できる工法が開発されていたり、駐車場も耐震診断の結果、柱に鉄板を巻き、10cm 程度太くなるだけで、従来通りに使用できる工法を採用できる場合もある。工事中や工事後の建物の使用が大きく制限されるとは限らないから、いろいろな不安を解消するために情報を得て、よく説明をすることが求められる。
(3)融資制度について
このマンションの場合のように、すべての耐震改修工事に取り組むことができなくても、資金力に応じてできる範囲で改修工事に取り組めたらと考えている管理組合は少なくないのではないだろうか。大規模改修工事に併せて1階ピロティの柱だけでも補強しておきたい、耐震スリットを設ける工事をしておきたいなどという希望もあるだろう。そのために管理組合を支援する方策の一つとして、簡単な手続きで低金利の融資が受けられる制度は是非とも必要である。
当マンションが利用した住宅金融支援機構のマンション共用部分リフォーム融資制度も有効であるが、低金利でより手続きが簡単な融資制度が、様々な耐震改修工事に開かれたものになることを期待する。また、さらにいえば、法律に定める計画認定を受けた改修計画と設計以外は原則として公的補助が受けられないのだが、これについても分割実施に対する柔軟な対応が求められ、それによって耐震化が促進されるだろうと考えられる。