改修の必要性が高まる「旧耐震基準」の建築物
2011年の東日本大震災は東北や関東などに大きな被害をもたらした。関西では1995年に阪神・淡路大震災があり、その折分譲マンションがはじめて地震による大きな被害を経験した。その経験から20年余りが経って、マンション住民の中には大震災のことを知らない人も多くなってきている。
震災当時はマンションの安全性について関心が高まっていたが、その後徐々に関心が薄まっていったようだ。しかし東日本大震災後、再びマンションの耐震性が話題となってきている。特に1982年以前に建てられた旧耐震基準のマンションではその安全性について耐震診断を受け、必要な改修を行うことが問われている。
ところが、管理組合のなかでは、耐震対策の必要性は分かるが、耐震診断の費用はどうするか、また診断の結果、耐震改修工事を行わなければならないとなると、その費用はさらに大きな負担となる。改修工事を避ければ耐震性に問題があるマンションということで住民の不安が募り、資産価値の低下が懸念されることもある。こういった心配が管理組合や住民の中にあって、なかなか耐震診断に取り組めないマンションが少なくない。
以下に紹介するマンションも同じ悩みを抱えていたのだが、東日本大震災後、管理組合はいつまでも躊躇しているよりも、少しでも地震の被害を少なくするために、できるところから耐震改修に取り組んでみようと考え、一歩踏み出すことになった。このようなマンションは増えつつあり、その経験は耐震性に悩むマンションに対応へのヒントを与えてくれるだろう。
耐震補強に関する情報収集から始めた管理組合
事例1「助かる命を少しでも多く」とできる部分の耐震改修を決意
ここで取り上げるマンションは、1974年に入居開始された鉄筋コンクリート造7階建て、ラーメン構造のもので、片廊下式の6棟からなっている(写真)。
住戸は401戸、ほかに店舗が12区画ある。各棟はエキスパンション・ジョイントで接続されていて、廊下と階段を使えば全棟全フロアを回ることができる。全体で4か所のらせん階段と2か所のエレベーターホール、屋内階段があり、A棟には中庭部分に鉄骨の渡り廊下が2か所ついている。
【写真】マンション全景(事例1)
2010年に耐震診断を行い、その結果に基づいて2011年から緊急対応耐震補強工事を開始し、2012年3月に完了している。できる部分から耐震補強工事を取り組んだ経緯は以下のようである。
1.耐震診断、耐震補強工事に至る管理組合法人の取組み
(1)第1段階―活動方針の決定
管理組合が耐震補強の必要性について考え始めたのは2005年ごろである。前年に鉄部塗装工事を終了していたが、国内外で多発する地震や耐震偽装事件があり、耐震補強について考える必要性が浮かび上がる。そして2006年の通常総会において表1のような活動方針が承認され、耐震診断・耐震改修の取組みが始まった(表1)。
【表1】
(2)第2段階―情報の収集
活動方針の決定と前後して、管理組合は耐震補強に関する情報の収集を始める。
まず地域の歴史や昔の地図を調べ、現代の地震災害危険度マップを入手した。また、隣接建物の地質柱状図を見せてもらい、当マンションのものを探し出して照合を行った。これらにより、地下2~3mに強くて硬い地層のあることがわかり、建物周辺の地盤は軟弱ではないことがわかった。
その他に市役所からの資料の取寄せや、耐震診断・耐震補強をテーマにするさまざまなセミナーへの参加、専門家への相談などを経て、2008年の通常総会でそれまでの情報収集の結果が報告された。
次回は、耐震補強工事に取り組んだ経緯を見ていく。