今回は、耐震改修を促進する「マンション共用部分リフォーム融資制度」について見ていきます。※本連載は、一級建築士で、大阪市立大学名誉教授、NPO法人集合住宅維持管理機構理事長の梶浦恒男氏の編著書、『大規模改修による マンションのグレードアップ事例集』(彰国社)の中から一部を抜粋し、マンション管理組合が取り組んだ耐震改修について、具体的な事例をもとに説明していきます。

工事費の80%を限度に低金利で融資を受けられる制度

前回の続きである。

 

(3)資金計画の検討

管理組合の当初方針である民間銀行からの融資は、事業の検討が進み管理組合が望む工事範囲や工事の全体予算が具体的になるにつれ、将来の返済が難しいことが明らかになった。そのために住宅金融支援機構のマンション共用部分リフォーム融資を検討することになった。

 

①住宅金融支援機構によるマンション共用部分リフォーム融資制度について

 

住宅金融支援機構のマンション共用部分リフォーム融資は、文字どおり、マンション共用部分の修繕をはじめ施設の改良などについて工事費の80%を限度に低金利で融資を受けることができる制度であって、建物の耐震を高める工事や耐震診断についても融資対象となっている。この融資制度を利用して工事を行う場合、耐震改修の促進に関する法律に定める改修計画と設計に従って工事を行うことが条件で、具体的には、耐震診断の結果により補強が必要と判断されたすべての工事を実施することが必要となる。

 

計画の認定の手続きには、最寄りの行政機関に耐震診断報告書、改修設計書、工事範囲を分割し実施する場合の年次計画書、事業の可能性を裏付けるための資金計画書などを提出し審査を受けることが必要で、その後計画の認定の交付を受けてはじめて融資手続きが可能となる。

 

全面改修を前提とするこの制度のついては、部分的な耐震改修工事を返済可能な範囲で融資を受けて取り組もうとしている当マンションにとっては、全面補強の工事費用を確保するためにさらに多額の融資を受けることはあり得ないことであった。

 

行政に事情を察してもらい、長期修繕計画に位置づけて必要なすべての工事を実施していくことも可との配慮を得たが、今後必要となる維持管理費や修繕積立金の値上げなど、高齢化がすすむマンションの実情を考えれば不可能であることがはっきりした。この計画認定による全面補強の融資は断念せざるを得なかった。

融資対象は「耐震性が高まる」工事

②住宅金融支援機構のもう一つの融資制度

 

当時、管理組合が主体的に進めてきた資金計画の目処がつかず、工事準備が暗礁に乗り上げようとしていた矢先、住宅金融支援機構の融資案内資料の細部に目が止まりもう一つの融資制度があることに気づいた。

 

その内容は住宅金融支援機構の定める「耐震性に関する基準(耐震評価基準)」に基づいて算定し、支障がある部位についての補強や部材の取替えなどを行うことによって耐震性が高まる工事が融資の対象となり、部分的な補強工事に対しても適用されるというものである。

 

耐震評価基準として定められている点について、早速マンションの現況図や、補強範囲、補強方法の資料を準備し、担当窓口で事前に相談した結果、融資の適用条件に当てはまる可能性が高いとの回答があった。また、金利が通常のリフォーム融資に比べて優遇されていることなどの明るい材料が見つかった。管理組合にとっては渡りに船となり、さっそく申し込み手続きを行い、資金計画が成り立ち融資の決定が成された。

本連載は、2016年3月10日刊行の書籍『大規模改修による マンションのグレードアップ事例集』から抜粋したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

大規模改修によるマンションの グレードアップ事例集

大規模改修によるマンションの グレードアップ事例集

梶浦 恒男、NPO法人集合住宅維持管理機構

彰国社

通称マンションドクターと呼ばれ30余年間に3000件超の業務を管理組合から依頼された実績をもつ編者が、改修工事によってグレードアップした多くの事例の中から72事例を分類整理して丁寧な解説を加え、居住者および管理組合の対…

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